スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
志半ばで挫かれたマラガの野望……。
“首長”の変心に見る外資の危険性。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/08/11 08:01
昨季終盤、リーガの試合を観戦に訪れたアル・タニ。このときはクラブのすべてが順調に運んでいたのだが……。
「バルセロナ、レアル・マドリーに次ぐスペインのビッグクラブになる」
2010年夏、3600万ユーロを払ってマラガを買収したカタールの王族アブドゥラ・アル・タニは、長らく2強の独占状態が続いてきたスペインフットボール界の勢力図を塗り替えるべく野心的なプロジェクトをスタートさせた。
初年度こそシーズン終盤まで残留争いに巻き込まれる苦戦を強いられたものの、2年目の昨季は豊富な資金力を武器にルート・ファンニステルローイ、サンティ・カソルラ、ホアキン・サンチェス、ジェレミー・トゥラランらビッグネームを次々と補強。その甲斐あってチームはシーズンを通して上位をキープし、最終的に目標のヨーロッパリーグ出場権を上回るクラブ史上初のチャンピオンズリーグ出場権を獲得した。
それから僅か2カ月、新シーズンの開幕を控えたチームが崩壊の危機に瀕することなど、誰が想像しただろうか。
収支バランスを修正すべく、高年俸の選手を大量放出へ。
マラガの悪夢は7月末、アル・タニとアルバニア最大手の石油企業オイル・タシ社とのクラブ売却交渉が発覚したことで現実のものとなった。同社との交渉は最終的に合意に達しなかったものの、この出来事はもうアル・タニにクラブの経営を続ける意思も、金を投資する気もないことを意味した。
この時既にマラガは、トップチームから下部組織までの選手スタッフ、その他のクラブ職員らに対する給料の不払いが2カ月以上も続く状態にあった。しかも一部の選手からは選手協会(AFE)を通して公式に告訴されていたため、7月末日までに支払いが実行されなければトップチームがセグンダB(3部)への強制降格を強いられる危険性すらあった。
そのような状況下、しばらく音沙汰がなかったアル・タニが売却交渉を行っていたことが発覚したことにより、クラブは滞納が続く移籍金や給料の支払いに必要な当面の現金を用意すべく、1年前に2200万ユーロで獲得したばかりのカソルラをアーセナルへ売却。さらに年間予算の大幅縮小に伴い収支バランスを修正すべく、高給取りの選手を多数放出する意向を示した。
現時点でカソルラの他にアポーニョ(→サラゴサ)、サロモン・ロンドン(→ルビン・カザン)の売却が決定。ホアキン、トゥララン、ヨリス・マタイセン、ナチョ・モンレアルらも他クラブからのオファー次第で移籍する可能性がある。