F1ピットストップBACK NUMBER
ドイツGPで可夢偉がとった秘密作戦。
有松マネージャーのメモの中身は!?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2012/07/26 10:30
コース脇で何やら相談をしている小林可夢偉とそのマネージャーの有松氏(写真左)。F1グランプリではスタッフの誰一人として欠けても勝つことはできない、ということが証明されたエピソードでもあった。
ライバルと異なるタイヤを装着すれば勝機は……ある。
それは、フォース・インディアと異なるタイヤ戦略を立てることだった。
12番手からスタートする可夢偉の前には2台のフォース・インディア勢がいた。9番手ポール・ディ・レスタ、4番手ニコ・ヒュルケンベルグ。しかし、この順位は土曜日に雨の中で行われた予選Q2以降の結果に基づくもので、予選直前に行われたフリー走行でも、ドライコンディションで行われたQ1でも、実は可夢偉のほうがフォース・インディア勢よりも速かったのである。
そこでザウバー陣営は、フォース・インディア勢が雨に備えてウエット寄りのセッティングで予選を戦ったから速かったのだと考えた。レース本番はドライコンディションとなるはずだが、ウェット寄りのセッティングのままだとすると……つまり、晴天となるはずの日曜日のレースではフォース・インディアのペースは落ちることが考えられ、彼らをいかにかわしていくかがポイントになると予想したのである。
ところが、フォース・インディアが搭載するメルセデス・ベンツ・エンジンはザウバーが搭載するフェラーリ・エンジンよりも最高速が伸びる特性があり、オーバーテイクポイントとなるストレートエンドでのオーバーテイクは容易ではない。実際、カナダGPで2ストップ作戦を採った可夢偉の前に立ちはだかったのも、コーナーでは遅いものの、直線番長だったフォース・インディアのディ・レスタだった。
そこでザウバーは、スタート時に装着するタイヤをフォース・インディア勢と別の種類にする決断を下す。
そうすれば、1回目のピットストップのタイミングがずれることになり、コース上でフォース・インディア勢に引っかかるリスクが減る。仮に引っかかったとしても、ピットストップが異なるタイミングなら、タイヤの状況も異なり、オーバーテイクはしやすくなると考えたのだ。
スタート直前にならないと分からない敵の動きをどう探る?
ただし、それを実行するためには問題がひとつあった。それはスタート直前までフォース・インディア勢が履くタイヤが判断できないということだ。
前日の予選がドライコンディションで行われていれば、トップ10内のドライバーはQ3でベストタイムを刻んだ時に装着していたタイヤでのスタートが義務づけられている。ところが、ドイツGPの予選はQ2からウエットコンディション。そうなると、日曜日のスタート時に装着するタイヤは各自自由となり、それはスタート直前になって装着されたタイヤからタイヤウォーマーが外されるまで識別できない。
しかし、まったくわからないわけではない。人間が取る行動にはある一定の傾向がある。それは一流のプロ同士なら、通じるものがあり、傾向を探っていけば、高い確率で正解を導き出すことも可能だった。
そこで日曜日の昼、ネンチはマネージャーの有松に、ある相談を行う。それは、フォース・インディアがどちらのタイヤでスタートしようとしているのかを探ってほしいというものだった。