F1ピットストップBACK NUMBER
ザウバーの地元メディアから猛批判。
可夢偉の心、チームスタッフに届かず。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2012/07/15 08:02
2010年には山本左近(HRT)が乗るマシンがピットで事故を起こしメカニックが負傷しチームに2万ドルの罰金が課されている。今季のヨーロッパGPでは、トロ・ロッソのベルニュがピットレーン上を含めたいくつかの違反で2万5千ユーロの罰金を課された。
「車両はいかなる時にも、不必要に速度を落とし不安定な走行、あるいは他のドライバーまたはそれ以外の人に危険を及ぼす可能性があるとみなされる方法で運転できない。これは、そのような車両がコース上を走行中の場合、ピット入口、あるいはピットレーンを走行している場合にも適用される」(競技規則第30条13項)
これは7月8日に開催された第9戦イギリスGP決勝レース中のピットストップで、定められた場所に静止できずにメカニックと接触してしまった小林可夢偉に、レース審査委員会からペナルティが出された際に適用されたスポーティングレギュレーションである。驚くべきは、科せられた罰金の額の大きさだ。
2万5000ユーロ。日本円にして、約245万円である。
金額の価値観は人によって違うので、この事故の代償である245万円が高いか安いかは、意見が分かれるかもしれない。しかし同じレースで、抜かれそうになった相手と接触事故を起こし、その相手をリタイアに追い込んだウイリアムズのパストール・マルドナドへのペナルティは、1万ユーロ(約98万円)だった。ほかのドライバーやライバルチームに迷惑をかけたわけでもない可夢偉が、その2倍以上の罰金を科せられるというのは、理解しがたいものがある。
地元メディアから聞こえてくる、過剰なほどの非難の声。
しかも、可夢偉はこの事故により、入賞圏外へと脱落。ポイントを争って命を懸けて戦うレーシングドライバーにとって、それこそが最大のペナルティ。それ以上、ペナルティを科す理由が見当たらない。
さらに驚くべきは、ザウバーの地元スイスのメディアの一部がこの可夢偉のミスを非難し、「チームは来季のドライバーラインアップを変更すべき」と唱えていることである。
確かにイギリスGPのピットストップ事故は、本人も認めているように、可夢偉のミスである。それについて反論するつもりはない。しかし、モータースポーツというのはコンマ1秒を争って、限界ギリギリでマシンをコントロールしながら走る競技である。コースにランオフエリアが設けられているのも、ピットストップ作業を行うスタッフがヘルメットをかぶっているのも、ミスが起きることを想定しているからだろう。
ならば、想定されてしかるべきミスを犯した者を、過度に責める必要はあるのだろうか。