プロ野球亭日乗BACK NUMBER
NPBコミッショナーは「球界の番人」。
再任に揺れる加藤氏の資質を問う。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO NEWS
posted2012/07/09 10:30
東大を卒業後、外務省に入省し駐米全権大使も務めた加藤良三氏。7月12日に行なわれるオーナー会議で再任されれば、2008年7月の就任以来3期目となる。
放映権料の分配をめぐってセ・パ各球団の主張が対立。
かつてMLBも経営的苦境に陥っていたときがあった。それを一気に建て直すきっかけとなったのが、ピーター・ユべロス氏のコミッショナー就任だった。
ロサンゼルス五輪の組織委員長としても経済的手腕を発揮したユべロス氏は、コミッショナー権限を強化するとともに、その権限を背景にさまざまな“経営改革”を断行した。テレビ放映権もCBSとESPNとの大型契約をまとめ、グッズのライセンス料の大幅引き上げなどに成功して、その後のMLB産業の活性化の礎を築いたわけだ。
日本でも今回の再任問題で一つの焦点となっているのが、テレビ放映権料の一括管理と12球団への分配の問題だった。
ADVERTISEMENT
この問題はこれまで何度も12球団の間で話し合われてきた。
しかし、各球団によって放映権料の格差が大きく、すでに高い放映権料を得ている巨人や阪神、中日などのセ・リーグ球団と、それを含めて再分配を求めるパ・リーグ球団の対立の構図は解消しようもないわけだ。
今回の構図を見ると、そうした既得権を守る立場からは加藤コミッショナーは支持され、それに反発するグループが反旗を翻している。
それが今回の再任問題の対立の構図となるようだ。
放映権料の管理・分配で大きく発展したMLBだが……。
ただ、である。
ユべロス氏がコミッショナーとしてMLBの経営改革に成功したのとは別に、「球界の番人」としては、あまり高い評価を得ていないことも記しておかなければならない。
ユべロス氏は強化したコミッショナーの権限を背景にFA選手の長期契約に反対し、そればかりかオーナー側と談合して長期契約を阻止するために動いた。そうして実質的に選手の契約は最長で2年に抑えられたが、その後に選手会が異議申し立てを行ない、調停委員会は経営者側に賠償金の支払いを命じる結果となっている。
コミッショナーとしてリーダーシップを発揮したことは間違いないが、そのリーダーシップが、「球界の番人」としては機能しなかった。
それがコミッショナー・ユべロスの現実だったわけだ。