プレミアリーグの時間BACK NUMBER
4年ぶりに優勝したチェルシーは、
アンチェロッティのチームとなった!
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAction Images/AFLO
posted2010/05/14 10:30
モウリーニョ以来、グラント、スコラーリ、ヒディンクと優勝できなかったチームを見事に栄冠に導いたアンチェロッティ。試合後はピッチ上でマイクを通し「カモォォォォォン」と叫んだりし、選手よりも嬉しそうだった
新チームの象徴だった戦術を捨て4-3-3に戻した勇気。
だが指揮官は、1月にアフリカ選手権によるドログバ不在の対応策として使用した“クリスマスツリー(4-3-2-1)”でチームの機能が改善されたのを見ると、迷わずダイヤモンドへのこだわりを捨てた。2月にドログバが復帰してもダイヤモンドを復活させようとはせず、基本システムは主力選手が最も戦い慣れている4-3-3へと変化していった。
その恩恵を最も受けたのは、中盤の得点源であるフランク・ランパードだ。序盤戦ではダイヤモンドの頂点でも起用されることが多く、昨年8月後半からの約2カ月間を無得点で過ごした。しかし、3センターが定着した後半戦はリーグ戦だけで16得点。32節アストンビラ戦での4ゴールでチェルシーの歴代得点王3位タイに浮上し、最終的には例年通り20点台の得点を稼いでシーズンを終えている。アンチェロッティは、「就任当初は絶妙のタイミングでゴール前に駆け上がるランパードの稀有な才能に気付いていなかった」とシステム変更の一因を説明している。過去に別れを告げたかったはずの新監督としては、新時代のトレードマークと意図したダイヤモンドを捨て、モウリーニョ時代の代名詞である4-3-3の採用に踏み切ったのだから勇気ある決断だ。
何度でもチームを立て直したアンチェロッティの手腕。
アンチェロッティは、選手の人心掌握においても確かな手腕を示した。冬の移籍市場ではアフリカ勢の離脱もあって新戦力獲得が噂されたが、「一時的にドログバらが抜けても戦力は十分なのだから補強はない。嘘をついたことになったら裸で練習グラウンドに立つ」と冗談交じりに公言して選手たちのやる気を刺激した。結果的にチームは、1トップを任されたニコラ・アネルカの2ゴールを含む7-2で大勝したサンダーランド戦をはじめ、戦力ダウンが危惧された1月を全勝で終えた。
2月に入ると、チェルシーはジョン・テリーの不倫騒動で揺れた。後にドログバが、「メディアの大騒ぎで集中力をそがれていたような気がする」と語ったように、その後の数週間で、CLはベスト16で敗退、プレミアでは首位から転落した。このスランプは、キャプテンが引き起こしたスキャンダルの影響と無縁ではなかったはずだ。
しかし、世間では自身の解任説まで囁かれる中、アンチェロッティは「敗戦が続けば監督がプレッシャーに晒されるのは当然のことだ」と公の場で非難を受け止めた。一方でブラックバーンと引分けて一時的に3位に落ちた31節直後、舞台裏で選手たちとの話し合いの場を設けてチームの心を束ね直すことに成功している。詳細は明かされていないが、その成果の程は、「全員が腹を割って言いたいことを言い合えたからこそ再び足並みを揃えて前進できた」というランパードの発言と、直後のリーグ戦でポーツマスとアストンビラを相手に合計12得点を奪って圧勝した結果が物語る。