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<忘れられない瞬間を> クルム伊達公子 「“女王”に挑んだセンターコート」~2011年6月22日:ウィンブルドン~ 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byCamera Sport/AFLO

posted2012/06/21 06:00

<忘れられない瞬間を> クルム伊達公子 「“女王”に挑んだセンターコート」~2011年6月22日:ウィンブルドン~<Number Web> photograph by Camera Sport/AFLO

15年ぶりのセンターコートで躍動する大会最年長のクルム伊達公子。大会屈指の名勝負に本場・ロンドンの観衆も酔いしれた。

 1回戦で地元英国のケイティ・オブライエンを下したクルム伊達公子。ウィンブルドンで15年ぶりに味わう勝利の美酒だった。40歳8カ月でつかんだ勝利は、ウィンブルドンでは、1968年のオープン化(プロ解禁)以降、2番目の年長記録となった。

 2回戦で伊達が挑んだのは、このテニスの聖地で5度の優勝を誇るビーナス・ウイリアムズ。対戦が決まると伊達は「相手のパワー、スピードについていけるかどうか。あのサーブにさわれるのか」と苦笑まじりに話した。パワーテニスで一時代を築いたビーナスとの初対戦。試合前には、力に押され、手も足も出ないという事態も考えられた。対策は練るが、最後は開き直るしかない。「できる範囲のプレーをするだけ」と心に決め、伊達は芝の女王に挑んだ。

 ボールに触れることも難しいと見ていたサーブだったが、いきなり相手のサービスゲームを破る好スタート。これが大きかったと伊達は言う。流れを引き寄せ、思い描いた通りの形でゲームを進めていく。

 伊達は、球足の速いグラス(芝)コートで有効とされる攻めを次々に繰り出した。下がりすぎず、ベースラインに踏みとどまって、早いタイミングでボールを打ち返す。アプローチショットを放つとネットに突進し、ドロップボレー、ハーフボレーと、ネットプレーの技巧の限りを尽くした。

番狂わせを期待し、静かに興奮していた英国の観客たち。

 リズムをつかんだ伊達が5-1と先行する。ここから相手に5ゲーム連取を許し、リードを吐き出したが、タイブレークを制し、7-6でセットを奪った。

 第2セットは疲れが出たのか「体が重くなり」、3-6で落とす。第3セットも0-2のスタート。ビーナスのサーブの威力は衰えず、伊達はすでに弾丸を打ち尽くしたようにも見えた。ところが、ここから伊達が盛り返すのだ。相手のサービスゲームをブレークバックし、タイに追いつくと、その後はサービスキープが続く。雨模様で屋根を閉めたセンターコート。マナーのよい英国の観客は、番狂わせを期待し、静かに興奮していた。

 15年前にも、このセンターコートで人々が固唾を呑んで伊達のプレーを見守る場面があった。この時、伊達は女王シュテフィ・グラフを追いつめていた。試合の流れは、第2セットを奪った伊達に傾いていた。ところが、グラフは日没が迫ってボールが見えにくいとアピールし、大会側もこれを認めた。試合は順延となり、翌日の再開後はグラフがペースを取り戻す。伊達は大魚を逃した。

【次ページ】 2時間56分の死闘。伊達の表情には満足感が……。

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