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<忘れられない瞬間を> クルム伊達公子 「“女王”に挑んだセンターコート」~2011年6月22日:ウィンブルドン~
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byCamera Sport/AFLO
posted2012/06/21 06:00
15年ぶりのセンターコートで躍動する大会最年長のクルム伊達公子。大会屈指の名勝負に本場・ロンドンの観衆も酔いしれた。
2時間56分の死闘。伊達の表情には満足感が……。
そして今、40歳を迎えた彼女が再び世界を驚かそうとしている。伊達はビーナスのサーブに必死に食らいついた。相手のセカンドサーブでは積極的に攻めた。しかし、どうしても均衡を破ることができない。
6-7で迎えたサービスゲーム、とうとう伊達が力尽きた。試合時間2時間56分。「やりたいことはすべてやった」「5度優勝の相手に、納得のいくプレーができた」。伊達の表情には満足感が浮かんでいた。ビーナスも「彼女はとてもハードに、フラットに打ってくる。リスクを冒して攻めてきた」と、ベテランに賛辞を惜しまなかった。
6月25日に開幕するウィンブルドンでどんなプレーを見せるのか。
観客は伊達の健闘にスタンディングオベーションで応じた。目の肥えたファンには、伊達が見せたプレーの価値がよく分かっていたはずだ。グラウンドストローカーが優位とされる時代に、彼女が試みた速攻型のテニス。それは、ビーナスが評したように「少し風変わり」で、今や古典的とも言えるスタイルだった。しかし、バリエーションを駆使して攻撃を組み立てる伊達に比べ、今の女子テニスは何と単調なのかと感じたファンも少なくなかったはずだ。
今年のウィンブルドンは6月25日に開幕する。ここでも伊達は攻撃的なプレーを貫くだろう。そして、その技巧でテニスファンを酔わせるに違いない。