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<FW不在論をめぐる空想> デルボスケの憂鬱 ~ユーロ連覇に挑むスペインに死角はあるか?~
text by
荻野洋一Yoichi Ogino
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2012/05/25 06:02
デルボスケを悩ませる、スペイン代表の新たな調理法。
メニューI。
かねてより現地の識者らによって提唱され、今年2月、ついに侯爵自らも「検討事項」として口にした《0トップ構想》。ローマが先鞭をつけ、バルセロナでも導入された、MFに「ニセのセンターFW」としての役割を担せる4-6-0のシステムである。ユーロ2012では、ダビド・シルバやセスク・ファブレガスあたりが「ニセのセンターFW」の適任者となるだろう。
「(昨年10月の)スコットランド戦では前線に起点を置かない戦い方をした。それはわれわれが持っているオプションであり、活用すべきものだ。非常に有益なもので、自分たちの特徴に合っている」
記者会見でそう述べた侯爵だが、「代表チームのバルサ化」を大舞台で推進する勇気をはたして持てるのか。こうした発言は、エースFW不在という由々しき事態を好転させるにはアクロバットが必要であることを承知しているからこそ出たはずである。
しかし《0トップ構想》は、不断のチューニングを要する面倒なシステムだ。ジョゼップ・グアルディオラのごとき求道者にふさわしい実験であって、結果優先のリアリストたる侯爵が、訳のわからぬチューニングに機嫌よく取り組めるかが鍵となる。
ジョレンテの起用によって危惧されることとは?
メニューII。
ビジャ、トーレスの代役として期待されるフェルナンド・ジョレンテの起用である。
だがここにも難題がある。彼はストライカーとして非凡な能力を備えるばかりでなく、典型的な好青年である。《0トップ構想》が要求する手間暇の空費も、この好青年は一挙に解決してくれるのだ。ではいったい、何が難題だというのか。
今年のサッカー界で最大のセンセーションは、異端派マルセロ・ビエルサ率いるアスレティック・ビルバオの躍進であろう。
このバスク地方の古豪で絶対的エースに成長したジョレンテは、ビエルサ監督のもとでプレーの幅をいっきに広げている。以前は195センチの長身を生かし、ターゲットマンとしての役割が主だったが、この1年間でポストプレーはもちろん、左右に流れてスペースを作る動きなど、プレーエリアが大幅に拡大し、動きも多彩になった。
しかし、もしジョレンテを単純に代表FWの軸に据えただけなら、左右ウィングの突破からクロスという形が自然と増えてしまう。そうなると、中盤のコンビネーションで相手守備を瓦解させるスペインの攻撃がやがて流動性を失い、動脈硬化をはじめるのではという不安がよぎるのである。