野ボール横丁BACK NUMBER
再び目覚めようとしている斎藤佑樹。
原点に帰った姿を春季リーグで発見!
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2010/05/07 11:35
大学に入ってから、初めて見せた「エゴ」と言っていいかもしれない。
先週末、5月1日の東大戦でのことだ。早大の先発・斎藤佑樹は、序盤に2点を先制されながらも、4-2で完投勝利をあげた。
そして、1シーズン振りの完投に、こう言って実に気持ちよさそうに笑った。
「(監督に交代しろと言われても)今日は無視してでも投げてたかもしれないです。それぐらい投げたかった」
そこまでこだわったのには理由があった。
前週の明大戦、第1戦に先発した斎藤は、6回1失点で降板させられている。チームも0-3で敗退。結局このカードは連敗で勝ち点を落とした。
明大戦における交代は投手としてのプライドを傷つけた。
1年生のとき、6回無失点で交代させられた試合が2試合あった。だが、そのときはまだ1年目だったし、相手ピッチャーはいずれも4年生だった。心の逃がし場所はいくらでもあった。
しかし今回は、最上級生になり、主将も任されていた。しかも、優勝を占う大一番で、相手ピッチャーは1年後輩の野村祐輔である。いくら超大学級の大石達也というリリーバーが控えているとはいえ、明大戦におけるその存在の軽さは、とても第1戦を任された先発投手のものではなかった。
その日は、囲み取材は行われなかったため、斎藤の胸中は想像するしかなかったのだが、ここで何も感じないようだったら投手ではない。
主将という立場を超えて溢れてきた投手としての本能。
開幕カードの立大戦、斎藤は、2-2と同点だったにもかかわらず、8回から大石にマウンドを譲っている。試合後、「もっと投げたかったのでは」という問いに対してはこう答えた。
「その点に関しては、まったく問題はないです。キャプテンとして、チームが勝つことがいちばんなので」
あまりにも形式張った言い方に、含むものを感じないこともなかったが、主将という立場上、そう言わざるをえない事情もよく理解できた。
だが、やはり明大戦のときは、そんなふうに自分をとりつくろうほどの心の余白もなかったに違いない。それが東大戦のときのコメントによく表れていた。
東大戦の斎藤は、決して調子はよくなかった。斎藤の実績と実力からいっても、格下の東大相手に2失点完投では、満足とは言えないだろう。
だが、試合後の斎藤は、やけにうれしそうだった。斎藤はやはり「投手という生き物」なのだとつくづく思った。