プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「アツいぜ!チケット」返金続出で
考えさせられた“ファンのあり方”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/05/14 10:31
「最高のプレーをしても『金を返せ』と言われるんじゃ選手のモチベーションが下がるだけだよ」と語った中畑清監督。ただし、この企画のネタでスポーツ新聞の一面を飾るなど、宣伝効果は抜群だったという声も……。
球場に足を運ばぬ、本拠地移転を反対した政治家たち。
前身の横浜ベイスターズは、何年も身売りを取り沙汰された末に、ようやく昨年、DeNAが買収に名乗りをあげて新球団として船出をしたばかりである。
身売り騒動のときには、本拠地移転の話もあった。そのときには地元では移転反対の声が上がり、神奈川県知事や横浜市長もメディアを通じて「横浜の文化を守る」ために移転反対の立場を表明していたはずだ。
ところが今季、彼らは何度、横浜スタジアムに足を運んだのだろうか? 世の中の耳目を集めているから、とりあえず選挙用に「横浜の球団を守る」とアピールしただけではないのか?
メジャーの取材をしていたとき、ヤンキースタジアムで何度も当時のジュリアーニ市長やブルームバーグ市長が観戦しているのをみかけたことがある。これも地元チームを愛しているというアピールかもしれない。ただ、それでも彼らはヤンキースの帽子をかぶり、スタジアムジャンパー姿で実際に球場に足を運んでいる。
言葉だけではなく、実際に行動でチームを支えているわけである。
プロ野球は、ファンがお金を払って球場に訪れて初めて成り立つ興行なのだ。
返金企画で実感した、「アツい」ファンのありがたみ。
もちろん選手はその対価に見合うだけのプレー、戦いをしてこそだが、試合はコンピューターのバーチャル世界ではない。ときにはつまらない試合、どうしようもないような大敗もある。
だが、それも野球なのである。
「バカヤロー、金返せ!」
スタジアムでこう口汚くヤジを叫ぶのはもちろん「有り」だ。でも、実際に入場料を返させては、プロ野球は成り立たないし、選手の立つ瀬もないではないか。
根本の問題はバーチャルな世界を、実際の野球の営業に持ち込んだ今回の企画にあるのは百も承知している。
ただ、チームを支える土台は、お金を払って毎日、試合を観戦しにきてくれるファンしかいないし、そういうファンこそが「お客様は神様」なのだと思う。その中で、今回の「アツいぜ!チケット」は、奇しくもそうではないファンのあり方(返金した人すべてがそうだというつもりはないが……)をもクローズアップする結果となってしまったような気がしてならない。
ファンにもファンである責任がある――こう言ったら大袈裟かもしれない。しかし少なくとも、ファンこそがチームを支えているという気概を持って行動する。「アツい」ファンとは、そういうものではないだろうか。