プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「アツいぜ!チケット」返金続出で
考えさせられた“ファンのあり方”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/05/14 10:31
「最高のプレーをしても『金を返せ』と言われるんじゃ選手のモチベーションが下がるだけだよ」と語った中畑清監督。ただし、この企画のネタでスポーツ新聞の一面を飾るなど、宣伝効果は抜群だったという声も……。
大勝した試合の返金要求に「屈辱だ」と中畑監督は立腹。
「ショックだ」
特に大勝した5日の試合で28人もの払い戻しが出たことを挙げて、中畑清監督が胸の内をこう吐露している。
「“オマエらのプレーには金を払えない”と言われたようなもので、現場にとっては屈辱以外の何ものでもない。ひどい負け方をしたならともかく、最高の勝ち方をして“金返せ” じゃ選手のモチベーションを下げるだけ。色々と営業努力をしてくれているのはありがたい。でも、この企画に関しては二度とやらないでいただきたい」
親会社のDeNAは、これまでもまず無料サイトで集客を図り、その中から様々な課金システムでお金を集めていくという手法で急成長した企業である。最近では「コンプガチャ」と呼ばれる課金システムの違法性が問われ、新聞沙汰にもなった。そんな集金のノウハウを野球の営業に持ち込んだわけだ。
コンピューターによるバーチャル世界では“ただ売り”も成り立つかもしれない。しかし、実際に生身の選手がプレーすることで商売が成り立つプロ野球の世界では、そこで売られている商品(選手やそのプレー)に感情やプライドという人間的な要素が入ってくる。それを無視してとにかくタダでも客さえ集めれば、という商法がそぐわないのは当たり前だった。
圧勝でも返金要求するファンはいったい何を見たいのか?
ただ、である。
そうした球団の企画とともに、もう一つにはファンとはいったい何なのかということを、今回の“騒動”は問うているような思いもするのだ。
中畑監督が指摘したように、5日の中日戦でDeNAは12対1と大勝して、野球の試合としては文句なしの圧勝だった。
にもかかわらず半分以上の28人もの返金者がいた。この日は勝ち試合だったので、返金は最大で半額の2000円までだったが、総額は4万6000円に上っている。一人平均1600円強を払い戻した計算になるわけだ。
百歩譲って、このチケットの企画の趣旨が“しゃれ”だと考えたら、例えば10円とか100円を払い戻すのなら判らなくもない。
中にはそういう人もいたと思うが、現実には多くのファンがほぼ全額に近い払い戻しを行なっていたということなのだ。
この事実は、実はファンとはいったい何なのか、を問うものでもあったかもしれない。