日本代表、2010年への旅BACK NUMBER
サッカー日本代表、“奇跡”の代名詞。
川口能活は南アをまだ諦めていない!
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/05/05 08:00
DF陣への指示と連動したポジショニングは他の選手間でも評価の高い川口。オシム監督も岡田監督もキャプテンマークを預けたそのキャプテンシーが、今こそ求められるはず
絶体絶命の状況を力に変える川口の強靱な精神力。
川口が起こした「奇跡」のひとつであるヨルダン戦では、記者席で見ていて驚いたことがあった。PK戦に入って日本が0-2でリードされているのに、川口が少し笑ったかのように見えたからだ。
「(PK戦の前に)カンタレリ(GKコーチ)が『キーパーの見せ場ができたじゃないか』って言ってきて遊び心を伝えてくれていたんです。開き直ってやろうと思ってましたから」
追い込まれながらもリラックスする川口に対して、追い込んでいるはずのヨルダンが逆に追い込まれて失敗を重ねた。このときの中国大会は、君が代が流れる際にブーイングが飛ぶなど、反日感情にさらされた完全アウェー状態だった。アウェー感が漂えば漂うほど、川口は力になるらしい。試合後、彼は平然と言ったものだ。「静まり返ったスタジアムで喜べたことが何よりうれしかった」と――。
この数日前に、アウェーで戦う心得を川口に聞いたことがあった。彼はこう答えた。
「アウェーになるとこっちがやりたいようにはやれない。でもそんな状況でも、楽しむという気持ちが大切だと思う。相手に打ち勝つためには、プレーで観客を黙らせればいいというか……。そのためには今置かれている状況や、自分のプレーを楽しむという感覚が必要なんじゃないか」
恐れることなき川口の魂が岡田ジャパンに「奇跡」を起こす!
川口という希代のキーパーはビッグセーブもあるが、ビッグミスもある。サイズが大きくないこともあって積極的に飛び出して勝負する「動」のタイプであるゆえに、ミスが失点に直結してしまう。ドイツW杯でのオーストラリア戦では思い切った飛び出しが裏目に出て同点ゴールを許し、悪夢のきっかけをつくってしまった。だが、続くクロアチア戦でも川口は失敗を怖れることなく積極的なスタイルにこだわった。スルナのPKを食い止め、無失点で切り抜けている。最後のブラジル戦はチーム全体が前掛かりになったために4点を失ったが、川口はFIFAが発表する「グループリーグ敗退国ベストイレブン」の控えGKに選ばれている。3試合で7失点のキーパーが選ばれたのだから、結果以上のインパクトが川口にはあったのだろう。
彼はクロアチア戦の後、こんなコメントを残している。
「ドイツに来られなかった人、途中で帰らなければならなかった人、直前で先発に入れなかった人、そういう人たちの分まで全員で戦っている。生半可な気持ちで戦っていない」
自分のプレーを楽しみ、置かれた状況を楽しみ、失敗を怖れることなくチームのために戦う強靭なマインド。5月10日のメンバー発表でたとえ「奇跡」は起こらなくとも、日本歴代2位の116キャップを刻む川口のマインドを、岡田ジャパンは南アフリカの地に必ず持っていくべきだ。