野球善哉BACK NUMBER
久保裕也、増渕竜義らの奇妙な役割。
試合の流れを“リセット”する投手達。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/04/28 12:40
エースでも、ローテーションピッチャーでもない。
かといって、セットアッパーでも、クローザーでもない。
勝利とは直結しにくい立場でありながら、野球を面白くする投手の役割がある――。
ペナントレースが開幕して1カ月あまり。6点差の逆転ゲームあり、両チーム25得点の打撃戦があるなど、荒れた試合が目立つ今季のセ・リーグで、ある役割を担う投手の存在が野球を面白くしている。
言うなれば……ゲームの流れをリセットする立場にいる投手たち、である。
巨人・久保裕也、ヤクルト増渕竜義らが、この1カ月でその役割を見事に全うしているのだ。
たとえば4月3日の巨人vs.広島。
久保がマウンドに上がったのは3回1/3、5失点でKOされた山口鉄也のあとを受けてのものだ。巨人にとっては先発が崩れる苦しい展開だったが、久保がそのあとの2回2/3を無失点に抑え、相手に傾いていたゲームの流れをリセットすると、チームは7回に同点、9回に勝ち越すことになる。久保に印は付かないが、勝利に導いた陰の立役者であった。
たとえば4月3日のヤクルトvs.横浜。
先発したヤクルトの由規、横浜の藤江が序盤に大崩れしたこの試合。由規は3イニングで8失点。藤江は1イニング7失点という惨憺たる内容だった。その由規のあとを受けてマウンドに上がったのが増渕だった。増渕は3回途中からマウンドに上がり、3イニングを無失点に抑え、見事に試合をリセット。最後は13-12でヤクルトにサヨナラ勝ちを呼び込んでいるのだ。
原監督の言う「ゲームを作り直すことができる」投手とは?
巨人・原監督が久保の担う役割のことを、こう説明したことがある。
「久保がよく投げてくれていると思います。彼は長いイニングを投げれる投手ですから、ゲームを作り直すことができる。うちにはいまだベールを脱いでいませんが、久保と同じような役割を担う投手が控えているんです」
4月8日の阪神戦、久保はリードしている場面で登板。
両軍の打線が爆発し、5回終了時で8-4となった時点での登板だったが、ここでも久保が果たした役割はゲームの流れをリセットするものだった。6回に登板して3イニングを無失点。阪神に追撃されていた中でその攻撃を常に食い止め、ゲームの流れをリセットしたのだ。最終的に巨人は8-5で競り勝っている。
プロ野球であれ、アマチュア野球であれ、たとえば同じ5失点でも1イニングに5失点なのか、5イニング連続失点での5失点なのかで意味合いが違ってくる。序盤という条件付きではあるが、1イニング5失点はたった1イニング攻められただけだが、5イニング連続失点は常に攻められているというダメージとなり、反撃に転じる意志を奪われることになる。
だからこそ、試合の流れを食い止める、いわばリセットする投手の存在が不可欠なのだ。