野球善哉BACK NUMBER
久保裕也、増渕竜義らの奇妙な役割。
試合の流れを“リセット”する投手達。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/04/28 12:40
先発から外れた投手たちの意地が、試合を面白くしている。
一方、起用される投手はどのような心境でマウンドに立っていたのだろうか。
久保にしても、増渕にしても、横浜でそのポジションを確立しつつあると思われる桑原謙太朗にしても……共通するのは彼らが本来は先発要員であるということだ。
球種の多さとゲームを作れる先発投手として必須項目を兼ね備えている。試合後に話を聞くと、久保と増渕はほぼ同様の答えを口にしていた。
「任された役割を果たすということです。ここでいい投球をすれば(任される役割が)変わるとかは僕が決めることではありませんから、僕ができることはゼロに抑えることです」
先発ローテを務めたこともある彼らの、腹の底を探れば忸怩たる想いが渦巻いていることだろう。しかし、彼らがそうした位置づけの中で、高いパフォーマンスを維持していることこそが、試合をとびきり面白くしているのだ。
先発投手が完投して勝利を収める。または、先発投手がゲームを作って、セットアッパーにつなぎ、最後をクローザーが締める、というのは常套手段である。しかし、長いシーズンの中では、すべてがそう思いのままに運ぶとは限らない。むしろ、突然の波瀾に見舞われ、そうならないことも多いのではないか。思い通りにならない試合で、いかにゲームを終わらせずに接戦に持ち込んでいくか。長丁場の戦いで、重要になってくるのは案外そういう采配ではないかと思うのだ。
巨人・久保は“修練の場”で徐々に成長してきている。
久保の今の立場は、序盤戦より信頼度が上がって、勝ちゲームに近い起用が増えてきている。あくまで、リセットする役割の投手というのは、先発を降格したか経験不足の若手に与えられる修練の場であることは否定できない事実でもある。「中継ぎも投げやすい部分を感じています。最初から思い切りいけますから。それがいい結果に出ているのかもしれません」という増渕は8試合14回2/3を投げて、いまだに自責点0の快投を続けている。彼の能力からすれば、ローテーションピッチャーであるべきとも言えるが、ここ数年のパフォーマンスの低下からすれば、彼にはいい修行の場になっているのは紛れもない事実だ。そして、それがまたチームにいい効果を生みだしている。
昨日(4月27日)の試合で、巨人は8-0で中日に圧勝している。中日は先発の朝倉が崩れ、ゲームの流れをリセットすることもないままに、一方的にやられてしまった。もちろん、中日がいつもこういう試合をしているわけではないが、試合をリセットする投手がもしひとりでもいれば……展開が変わっただろうにという想いがするのは、巨人やヤクルトがそういう試合を頻繁に見せてくれているからだろう。
「敗戦処理」はもういらない。
ビハインド時に投入されるピッチャーたちの咆哮。
“リセッター”投手の存在が野球を面白くさせる。