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戦略家なのか臆病者なのか?
1点で“快勝”したバイエルンのやり口。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byBongarts/Getty Images
posted2010/04/22 11:40
ひねくれている。
アリアンツアレナを埋め尽くした6万6千人の観衆のほとんどが、そう思ったに違いない。
普通ならば、ホームで先制したら、イケイケになって大量得点を狙いたくなるものだろう。それも先制点を決めたのがエース格のロッベンなのだから、一気呵成に得点するチャンスである。
しかし、バイエルンのファンハール監督は違った。
試合開始から、終了のホイッスルまで、徹底的に「自分たちがゴールする」こと以上に、「相手にアウェイ・ゴールを取らせない」ことに固執したのである。
優れた戦略家なのか。それとも、ただの臆病者なのか――。
リベリー&ロッベンの最強コンビで圧勝のはずが……。
CL準決勝の第1レグ、バイエルン対リヨン。最初に主導権を握ったのは、ホームのバイエルンだった。
左にフランス代表のリベリー、右にオランダ代表のロッベンを配する“Rib&Rob”システムで、ピッチを横方向に広く使い、素早くシンプルにチャンスを作り出す。前半18分にはDFデミケリスのパスを、左サイドバックのコンテントがワンタッチで前に出し、リベリーが強烈なシュートを放った。その2分後には、リベリーのロングパスにロッベンが走りこみ、オリッチのシュートチャンスを演出。この2人がいれば、ゴールが決まるのは時間の問題……のはずだった。
しかし、リベリーの軽率なプレーが、バイエルンの“黄金律”をぶち壊してしまう。
前半37分、リベリーはボールを奪おうとして、リサンドロ・ロペスの足を踏んづけてしまう。すぐ近くで見ていたイタリア人のロベルト・ロセッティ主審は、迷わずレッドカードを懐から取り出した。
リベリー退場の後にファンハールがとった意外な行動とは?
実はこの試合の4日前、リベリーは一大スキャンダルに巻き込まれていた(パリで未成年者を買春した疑いで、フランスの警察から事情聴取を受けたと報道された)。その苛立ちがプレーに出てしまったのかもしれない。
1人少なくなった状況に、ファンハール監督はどう対応するのか?
ほとんどのサポーターは、攻撃的な采配を期待したのではないだろうか。
ところが、ファンハール監督が切ったのは、守備的なカードだった。準々決勝のマンチェスターU戦で計2点を決めたFWオリッチに代えて、守備的MFのティモシュクを投入したのである。
ホームがバランスを崩さないのだから、試合は当然膠着した。この根比べに、先にギブアップしたのはリヨンだった。後半9分にDFトゥラランが2枚目のイエローカードを出され、退場になってしまった。