プレミアリーグの時間BACK NUMBER
宮市亮が放った「輝き」と「甘さ」。
プレミアデビューを現地はどう見たか?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byPress Association/AFLO
posted2012/02/13 11:55
稲本潤一、戸田和幸、中田英寿に続く4人目の日本人プレミアデビューを飾った宮市亮。“アーセナルの主力”という目標に向け、大きな一歩を踏み出した
GKの手の平1つ分。
宮市亮にとっての夢のデビュー・ゴールは、近そうで遠かった。
2月11日に行われた第25節ウィガン戦は、宮市にとって、アーセナルからレンタル移籍したボルトンでのデビュー戦であり、待ちに待ったプレミアリーグでのデビュー戦でもあった。
後半からピッチに立った背番号30に見せ場が訪れたのは、1点のビハインドで迎えた終盤86分。左手で足下を指差しながら最終ラインの裏に抜けると、FWのダビド・エンゴグから要求通りのパスが出た。ファーストタッチでボールの勢いを殺し、DFを背負いながら右足を大きく踏み込む。続いて左足から放たれたシュートは、ファーポスト内側のネットを揺らすかに思われたが、アリ・アルハブシが横っ飛びになって腕を伸ばすと、ボールは無情にも枠外に弾き出されたのだった。
18位対20位の“ボトム対決”に敗れた(1-2)ボルトンにとって、19歳の日本人が放った閃光は貴重な収穫となった。最悪の出来だった前半は、ホームでリーグ最下位の相手に攻め込まれ、0対1で終えられただけでも幸運だった。試合後、19位に順位を落としたボルトンのファンサイトでは、宮市がMVPに選ばれていた。選出理由として、「相手を攻めてくれただけでも表彰状ものだ」と書き込むサポーターもいた。
出場後まもなく「最大の持ち味」であるドリブルを披露。
ボルトンによる67分の1点は、GKが大きく蹴り出した“ダイレクト殺法”によるもの。決定的な仕事はできなかった宮市だが、一方的な守勢からの脱出に貢献したことは間違いない。オーウェン・コイル監督が「エキサイティング」と評し、本人も「最大の持ち味」と自負するドリブル突破を披露するまでに、出場から5分とかからなかった。タッチライン沿いで交代を待ちながら、ベンチを振り返って笑顔を見せたあたり、緊張で「観衆の声援も聞こえませんでした」と告白していた、アーセナルでのデビュー戦(リーグカップ3回戦)よりも余裕があったのかもしれない。
マルティン・ペトロフに代わって4-4-2システムの左ウィングに入った宮市は、50分、DF2名の間を駆け抜けてラストパスを狙った。60分過ぎには、インサイドに切り込んでのパスが、最終的にはデイビッド・ウィーターのシュートを呼んだ。ボルトンにとっては、この試合で枠を捉えた1本目のシュートだった。
続く65分からの20分間には、左右両足からのクロス3本、左足からのカットバック、そして右足からのスルーパスでチャンスメイクを試みている。イバン・クラスニッチが2度のシュートを吹かして得点には至らなかったが、敵を置き去りにする速さと、両サイドのCKも任された左右両刀使いの器用さは、ボルトンの新たな武器となっていた。チーム合流から10日しか経っていない事実を考えれば、ボールを持ったチームメイトが、10代の新顔を探してパスを送るようになっていただけでも評価に値する。