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斎藤佑樹のラストイヤー始まる!!
投手王国・早大野球部に贅沢な苦悩。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byKYODO

posted2010/04/07 12:50

斎藤佑樹のラストイヤー始まる!!投手王国・早大野球部に贅沢な苦悩。<Number Web> photograph by KYODO

 そのことを嘆いたりしてはいけないのだろうな、とは思う。

 4月10日に東京六大学野球が開幕する。いよいよ早大・斎藤佑樹の大学ラストイヤーが始まるわけだが、早大には大石達也という最速154キロを誇るストッパーがいる。今秋のドラフト会議で1位指名を受けるのはほぼ間違いない。

 おそらく過去にもこれだけのストッパーを擁した大学は、そうはないだろう。というのも、そんなにいい投手がいるのなら、普通は先発に回すからだ。大石の他にも斎藤佑樹、福井優也というドラフト候補の投手をかかえる早大だからこそできる起用法だ。

 だが、この大石がいるということが、斎藤にとって幸運であると同時に、その逆でもあるように思えて仕方ないのだ。

高校時代の斎藤はいつも危機を背負って完投していた。

 思えば、早実時代の斎藤は本当にタフだった。「エースと心中する」などという言い回しが死語同然となり、どこのチームも複数の投手で勝ち上がってくる中、斎藤ひとりだけがそんな常識から完全に外れていた。

 3年春、選抜大会では、2回戦の関西高(岡山)戦で延長15回を完投し、231球を投げ切った。翌日の再試合では先発こそ回避したものの、3回からリリーフし103球。連投だった上に、2日間で計304球も投げたのだ。

 3年夏も、まずは西東京大会の決勝戦、日大三高との延長11回の激闘を制するために221球を費やした。しかも、圧巻だったのは、終盤に入り、球威が衰えるどころか勢いを増していったことだ。斎藤はそのときのことをこんな風に話していた。

「甲子園の印象が強いから、あの試合が忘れられてしまっている気がするんですけど、自分でもすごかったなと思いますね。甲子園は(投球)術で抑えたという感じでしたけど、このときは力で押し切りました。最初から最後までほぼ全力だったにもかかわらず、後半、147とか148とかばんばん出てた」

 自己最速となる149キロをマークしたのもこの試合だった。

斎藤のポテンシャルは崖っぷちの責任感で開花する。

 その後の甲子園では、最後の4日間で4完投している。しかも3連投目、決勝戦の1試合目は再び延長15回まで戦い、178球も投げているのだ。そしてこのときも、疲れるどころか、捕手の白川英聖いわく「準決勝からは投げるたびにどんどんよくなっていった」という。

 斎藤も、決勝再試合が終わったときのことをこう振り返っていた。

「次の日も行こうと思えば行けたんじゃないですかね」

 なぜ、斎藤がそれだけのスタミナと技術を身につけることができたのか。答えは簡単だ。早実には甲子園で勝てるレベルの投手が斎藤しかいなかったからだ。

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斎藤佑樹

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