オフサイド・トリップBACK NUMBER
マネーが変えるサッカー界の勢力図。
中国が日本を買い占める日は来るか。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byKYODO
posted2012/01/04 10:31
中国で開かれた、クラブの監督就任記者会見で自身の名前が入ったユニフォームを披露した岡田武史氏
次から次へと世界中から有名選手を集めている中国。
むろん似たようなケースはヨーロッパの他の諸国でも散見される。
数年前のチェルシー、今季のマンC、近年のルーマニアのクラブしかり。日本に縁の深い所では本田圭佑の移籍先に浮上したPSGや、安田理大に続いてハーフナー・マイクを加えたフィテッセもしかりである。PSGの羽振りと成績が急によくなったのは、カタールの投資ファンドによるものだ。方やフィテッセのクラブの会長を務めるのは、グルジア出身の元プロサッカー選手。協会の会長も務めたこともある人物だが、彼の背後にアブラモビッチが控えているという噂は今も根強い。
だがこれらの事例以上に日本にとって身近なのは、やはり中国スーパーリーグで起きている動きだろう。
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元日本代表監督の岡田武史氏が、杭州緑城への監督に就任したことだけでもかなりの驚きだったが、その直前には元チェルシーのアネルカが上海申花への移籍に合意。上海申花はさらにジャン・ティガナに監督就任を要請したり、元フランス代表のピレスにもオファーを出したと報じられた。
業種や財力のスケールこそ違えど、ヨーロッパと同様、これらの現象も新たな資産家の登場が要因であることは言うまでもない。巨万の富を短期間で築いた人々がクラブを買収したり、名の通った選手を中国にかき集めようとしているというニュースは、おそらくは来年以降も中国大陸から届くはずだ。
収束しつつあるとは言われながらも、未曾有の経済成長はいまだに続いている。日経ビジネスの記事によれば、資産が1000万元(約1億2200万円)を超える「千万長者」の数は、2011年時点で前年比9.7%増(!)の96万人に達したという。
中国スーパーリーグに必要なのは「長期的ビジョン」である。
では、このような現象は日本サッカー界の脅威になるのだろうか。
結論から述べるなら、金にあかせた補強が一朝一夕にプロリーグのレベルアップや、代表チームの強化につながると見るのは早計なように思われる。
資金力はたしかに脅威だし、単純に考えれば中国には日本の10倍近くの人間がいる。巨大なポテンシャルを秘めていることは間違いない。
しかしリーグの底上げや代表の強化には、ハードとソフト両面で官民一体となったさまざまな作業が必要になる。インフラの整備、草の根レベルでのファンのさらなる開拓、競技人口の拡大、協会やリーグの運営の組織改革etc、そしてなによりも長期的なビジョンに基づく選手の育成と強化は必須だといえる。
中国におけるプロリーグは'94年にスタート。その後2004年の改編を経て、2009年時点では1試合あたり平均1万6300人を動員したが(1部のスーパーリーグ)、Jリーグなどと比べると後進性がつとに指摘されてきた。現に広東省にある深セン紅鑽を率いるフィリップ・トルシエは、中国の新聞に対して次のように発言したとされる。
「中国のサッカーはあまりにも未熟だ。モデルがないし、選手の育成に関しては日本よりもはるかに遅れている」。中華料理の分野と違って「中国3000年の歴史」的なアドバンテージはサッカーにはない。