オフサイド・トリップBACK NUMBER
マネーが変えるサッカー界の勢力図。
中国が日本を買い占める日は来るか。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byKYODO
posted2012/01/04 10:31
中国で開かれた、クラブの監督就任記者会見で自身の名前が入ったユニフォームを披露した岡田武史氏
「ちょっとおいしい話があるんだけど、興味はあるかい?」
慢性的な金欠病にあえいでいるのを不憫に思ったらしい。投資銀行に就職した大学時代の親友がいきなり電話をかけてきた。都内の一等地にそびえ立つ億ションと戦艦のように巨大なベンツ。ついでにゴージャスな腹回りと、地肌が透けて見える髪型まで手に入れた彼が言う。
「ロシアのエネルギー関連株は、この先まだまだ伸びる可能性がある。小遣い程度の額からでも始められるから、思い切って一口のってみてもいいんじゃないか?」
ADVERTISEMENT
「小遣い程度の額」にさえ不自由している身としては泣く泣く諦めざるを得なかったが、話の途中で彼の口からは聞き覚えのある単語が出てきた。それが「ガスプロム」だった。
マネーパワーで一気に欧州の表舞台に登場したゼニト。
ヨーロッパサッカーに詳しい人なら、ピンときたのではないだろうか。ガスプロムとはゼニト・サンクトペテルブルクのスポンサーを務める企業である。ロシアの天然ガスを一手に扱うガスプロムがスポンサーになったのは2005年に遡る。そこからのゼニトの躍進ぶりは凄まじかった。2004年までUEFAのチームランキングで180番代に低迷していたクラブは、あれよあれよという間に階段を駆け上がり、CLやELでも常連に収まってしまった。
本田圭佑が所属するCSKAモスクワも同じような上昇気流に乗ったクラブだがゼニトの方が与えたインパクトは大きい。サンクトペテルブルクに本拠を構えるゼニトの躍進は、新たな「マネーパワー」の威力と、それに伴うサッカー界の地殻変動を象徴しているからだ(CSKAの場合は、チェルシーのオーナーであるロマン・アブラモビッチが所有していた石油会社の「シブネフチ」がスポンサーになったことが復権の契機となった。シブネフチは現在、ガスプロムの傘下企業となっている)。
ロベカル、エトー、ジルコフ……ダゲスタンに集められた名選手たち。
ロシアのクラブ絡みでは、アンジもわかりやすい例として挙げることができる。カスピ海のほとり、ロシア連邦のダゲスタン共和国に本拠を構えるクラブはロベルト・カルロスを獲得しただけでは飽きたらず、8月には2200万ユーロの年俸でエトーを一本釣りし、ジルコフも獲得した。最近ではチェルシーのドログバにも声をかけたという。
収容人数わずか2万人の公共施設をホームにしているクラブが、かくも大盤振る舞いができるようになったのは、ロシアの上院議員であると同時に金融のプロでもあり、石油産業(ここでもガスプロムの名前が出てくる)や貴金属産業への投資でのし上がった億万長者がオーナーに収まったためだった。