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天才的技量と自己正当化の体質。
~メイウェザーの勝利に疑問を呈す~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2011/09/26 10:30

天才的技量と自己正当化の体質。~メイウェザーの勝利に疑問を呈す~<Number Web> photograph by Getty Images

第4ラウンド、バッティングがあった直後の3人(右からオルティス、メイウェザー、コルテス)。レフェリーのコルテスは「両者はガードを上げる必要があった。メイウェザーに反則はない」と試合後にコメントを残している

レフェリーの合図の前に拳を出した王者には賛否両論が。

 両者がグローブを合わせた瞬間、レフェリーがふたりから眼を離した。たぶん、リング下からなんらかの指示が飛んだのだろうが、オルティスもそれにつられてちらりとよそ見をした。しかもガードを下げたまま。

 その瞬間、メイウェザーの左フックがオルティスの頬をとらえた。

 あ、と私はふたたび叫んだ。

 その直後、メイウェザーは右ストレートの追い討ちをかけた。拳は顔面を射抜いた。キャンバスに沈んだオルティスは、しばらく起き上がることができなかった。

 メキシコ系のファン(オルティスはカンザス生まれのメキシコ系だ)が大半を占める会場は、ブーイングの嵐に包まれた。レフェリーがファイトを命じる前にパンチを出したメイウェザーの卑怯をなじったのだ。

 が、メイウェザーにも言い分はあった。グローブを合わせるのは試合再開のサインだ。それに、「いついかなるときでも自身を防御すべし」とはボクシングの憲法第1条ではないか。メイウェザーはこう弁明して、一歩も引かなかった。

 理屈の上ではメイウェザーに分がある。試合後のメディアの論調も、まあ仕方がないかという感じのものが多かった。

パッキャオと並ぶ希代の天才がこんな勝ち方でいいのか?

 しかしなあ、というのが私の感想である。

 メイウェザーのパンチは速い。メイウェザーにパンチを当てるのは至難の業だ。いいかえればメイウェザーは攻守ともに魅力的な一種の天才である。あのマニー・パッキャオと並んで現在のボクシング界を代表する逸材、といっても過言ではない。

 そんな天才がこんな勝ち方をしてよいのだろうか。

 よりによって、隙ありお面! などとはしゃいでいてよいのだろうか。しかもメイウェザーは、この試合で2500万ドルのファイトマネーを手中に収めている。

 体質に問題があるのだろうか、とさえ私は思った。

【次ページ】 メイウェザーが避け続ける「世紀の対決」の可能性は?

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