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天才的技量と自己正当化の体質。
~メイウェザーの勝利に疑問を呈す~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2011/09/26 10:30

天才的技量と自己正当化の体質。~メイウェザーの勝利に疑問を呈す~<Number Web> photograph by Getty Images

第4ラウンド、バッティングがあった直後の3人(右からオルティス、メイウェザー、コルテス)。レフェリーのコルテスは「両者はガードを上げる必要があった。メイウェザーに反則はない」と試合後にコメントを残している

 妙なボクシングを見てしまった。

 土曜日(2011年9月17日)に行われたWBC世界ウェルター級タイトルマッチのことである。王者がビクター・オルティスで、挑戦者がフロイド・メイウェザー。

 え、逆じゃないの、と思った人は少なくないのではないか。いうまでもないが、メイウェザーは華麗な戦績を誇る。34歳、41戦全勝(25KO)。シェーン・モズリーと戦って以来16カ月ぶりのリングとはいえ、ガウンを脱ぎ捨てた肉体に衰えは見られない。

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 一方のオルティスは、劇画的な経歴のボクサーである。両親に捨てられ、幼い弟の面倒を見つづけ、聖歌隊でコーラスを歌い、趣味はスカイダイビングとサーフィン。私が聞いただけでもかなり異色の背景だ。年齢は24歳。戦績は33戦29勝(22KO)2敗2分け。瘤のように隆起した肩の筋肉を見ても、破壊力は想像がつく。

 ただ、技術とスピードには歴然とした差があった。メイウェザーのパンチは最初から当たりつづけた。それも、素早く繰り出される右のリード(というより、いきなり叩き込む右ストレートだ)が面白いようにオルティスの顔面をとらえる。一方、オルティスが逆襲に転じても、メイウェザーはロープを背負いながら肩をぐるぐるとローリングさせ、相手のパンチを楽々とかわしている。

オルティスのバッティングの後、一瞬の空白がうまれた。

 第4ラウンド、オルティスが初めて反撃らしい反撃を見せた。

 短い右をメイウェザーの顔面にヒットさせ、コーナーに追いつめて左右の連打を送り込んだのだ。そして――。

 あ、と私は思わず声をあげた。パンチが命中しないのに業を煮やしたのか、やや背の低いオルティスが、人間ロケットのように跳び上がったのだ。頭が、メイウェザーの口もとに命中する。露骨なバッティングだ。

 レフェリーのジョー・コルテスはすぐに試合を止めた。痛がるメイウェザーをちょっと休ませ、オルティスの減点を3人のジャッジに命じた。オルティスも詫びた。メイウェザーをハグし、頬にキスする素振りまで見せて、頭突きが故意でなかったことを釈明した。

 両者はリングの中央に戻った。

 だが、ここでもっと妙なことが起こった。

【次ページ】 レフェリーの合図の前に拳を出した王者には賛否両論が。

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