カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:東京(日本)「FC群馬ホリコシ系」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2004/11/18 00:00
テレビの32インチ液晶画面に、天皇杯が映っている。
FC群馬ホリコシと柏レイソルの試合。弱者が強者に
攻撃的スタイルで噛みつく様子に、僕の胸はすく。
いや、あっぱれ! FC群馬ホリコシには恐れ入った。
ふと、気紛れにテレビのリモコンのスイッチを入れてみれば、32インチの液晶画面には、天皇杯4回戦の模様が現れた。柏レイソル対FC群馬ホリコシ。
前者はともかく後者を見るのは初めてだ。JFLで中位につけるチームのレベルってどんな? サッカーのスタイルは? なかば気もそぞろに眺めていたのは、最初の1、2分だった。気が付けば、夢中になっていた。このスタイルこそ僕のお気に入り。
柏との相性も良い。柏に元気がなさ過ぎたことも輪を掛けたのだけれど、FC群馬ホリコシとやらは(失礼)、2階級も下のレベルにありながら、試合の主導権をしっかり握っていた。
ナビスコカップ決勝(FC東京対浦和レッズ)を、想起せずにはいられなかった。柏と浦和ではスタイルにこそ若干違いはあるが、「強者」であることに変わりなく、また「弱者」に押さてしまう姿もそっくりだった。一方、弱者のスタイルは、一言でいって攻撃的。そのうえ、弱者はこの場合も試合の途中で退場者を出し、10人での戦いを余儀なくされた。
共通点はこれだけでは収まらない。10人になってからも、弱者が後ろで引いて守らずに、頑張って前からプレスを掛けたことだ。そして、攻撃的精神を貫いた挙げ句、勝利という結果を導き出した。FC群馬ホリコシは、PK戦ではなく90分での決着。柏のふがいなさは目に余ったが、それでも僕は、タイムアップの笛が吹かれると、パチパチパチと画面に向かい拍手をしたくなる衝動に駆られた。ドラマだった。痛快劇だった。池田司信監督は、してやったりの気分だろう。
弱者が攻撃的スタイルを持って、強者に噛みつく姿勢、その結果、ブッ叩くことに成功する姿は、見ていて本当に気持ちが良い。胸の透く思いがする。僕が、一介のフリーランスというきわめて弱い立場の人間で、そのくせ生意気という事実も、後押しするのかもしれない。でも、大袈裟に言えば、僕は物心が付いた時から完璧な判官贔屓だった。幼稚園の頃から、巨人、大鵬、卵焼きでは全くなかった。だからといって阪神が好きだったわけではないのだけれど、それはともかく、サッカーにおいても、取材を進めていくほどに、攻撃的サッカーを嗜好する監督の言葉に、心動かされるようになった。明快だし、潔いし、挑戦的だし、僕の性にピタリとマッチしたのである。特に、ボール奪取の方法が、洒落ているチームを見るとゾクゾクさせられる。
しかし、今のところ、世の中にはどうも僕と同じような類の人種は少ないようだ。出る杭は打たれるではないけれど、人と違うことを言いたい人は圧倒的少数だ。それは、世の中の労働者の圧倒的多数がサラリーマンであることとも関係があるのかもしれないが、サッカーに落とし込んでも、攻撃サッカー系の痛快なる勝利に立ち会った人、それに心底感銘を受けた経験のある人は少数派だ。
次期監督候補の一員に「ハラヒロミ」がなかなか加えられないことも、それと大きな関係がある。早稲田出身だし、現役時代は三菱だし、途中までは、まさに日本代表監督に相応しい経歴の持つ主にもかかわらず、いまの世の中にあっては、変人で通ってしまっている(失礼)。根っからのフリーランスである僕が変人扱いされるのとはワケが違う。
FC東京系及びFC群馬ホリコシ系のサッカーが、世の中から「普通」の扱いを受ける日はいったいいつ訪れるのだろうか。そう近くないと思うけれど、そうなったらそうなったで、僕は問題だ。相変わらず変人を気取るためには、どのスタンスを維持すればいいのか。守備的サッカー万歳と言うわけにもいかないし。攻撃サッカーの細部について、突っ込んでいけば、オタクっぽくなるし。案外居心地は悪いのかもしれない。そんな時代が早く来て欲しいような欲しくないような……。