Column from SpainBACK NUMBER
久しぶりの頂上対決へ。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2004/11/17 00:00
ウソではない。首位バルサとレアルとの勝点差が、4ポイント。実にゆっくりと白い巨人はFCバルセロナに迫ってきた。「この敗戦はチームに影響を及ぼさない。フットボールはいつも勝つことができないもんだ」と、14日のベティス戦でスペイン・リーグ今季初黒星を喫したバルサのラポルタ会長は見栄を張るけど、虚を衝かれてうろたえてはいないだろうか。誰でも、いつかは負ける。リーグ38試合を無傷で走ることは不可能だ。週末ごとの簡単な足し算から答えはわかりきってはいたが、それでもレアルには驚いた。いつの間に? ラポルタも青ざめはしなくても余裕はなくなっただろう。
ベルナベウに懐かしい感覚が戻りつつあったのは、10月23日のバレンシア戦あたりからになる。バレンシアに追いつかれそうにもなり、決定的なチャンスも少なかったが、前半のボール回しのスピードだけはFCバルセロナより美しかった。その1週間前のベティス戦で頭の薄いフランス人が血相を変えてグティと言い争っていたのが幻に思えたほどだ。いまでも、凡ミスは絶えない。カシージャスは忙しい。14日のアルバセーテ戦では、ゴール・ラッシュが起きるまで、復帰したばかりのサムエルが観客席のマドリスタからブーイングを浴び続けた。ゴール前での低レベルな空振りで同点ゴールをアシストしてしまったから、責められても当然だけども。一歩間違えるとイバン・カンポやグティのように心が傷ついてしまう恐れがあるのも忘れて、彼らの罵声は飛んだ。あれは、効いた。味方の野次はときにプラスに転じる。レアルは、あれよあれよと6ゴールを奪ったのだ。
2時間遅れてグラウンドに立ったバルサは、すでに「負ければ4ポイント差」を知っていただろう。バルサはレアルを意識したのか。ルイス・デ・ロペラでは過去5年間勝利をあげていない相性の悪さなのか。終盤の雰囲気は最悪だった。どこかで見たようなシーンも訪れた。プジョールの完全なミスから2点目を奪われたとき、バルサのキャプテンはマルケスを怒鳴りつけていた。なんでや? マルケスも黙っちゃいない。言い争い。
嫌なときにバルサは負けた。次がクラシコでなければ、カンプ・ノウの我が家に帰って敗戦を冷静に振り返ることもできただろうに。どうも、ここ数試合は先制点を許してばかりいるし、レアルのような爆発力も感じさせない。得点ランキング首位のエトーはチャンスを逃してばかりで、ロナウジーニョはひとり歩きしてしまいそうだ。シャビが狙われると機能しなくなる……。とまあ、いろいろ並べてみたけれど、そんなに悲観的になるのもおかしな話。失恋していつまでも引きずるヤワなバルサではこの先真っ暗だ。バルサとレアルがどう転ぶかは神様しか知らないわけで。とりあえずは、週末にひとつの答が出る。2強の時代にマンネリ化を感じた時期もあったけど、やっぱりバルサとレアルの首位争いは興奮する。頂上対決は久しぶりのことだから演出は最高だ。キニエラ(サッカーくじ)ではレアルの勝ち、引き分けかな。トリプルで行きたいのが本音だけど。
ところで、冬の移籍マーケットがぼちぼち動き出している。ビジャレアルがアルゼンチン代表のソリンをさっそく購入すれば、マジョルカへの大久保嘉人レンタル移籍の話がまとまった。マジョルカは最下位を走っているが、インテルを解雇されたクペルが再び戻ってきて島民は喜んでいる。空中戦の得意なFWが好きだけど、クペルとちびっ子との凸凹コンビを組ませるのも一興である。外国人枠に余裕があったわけだし、出場機会は城や西沢よりも巡ってきそうだ。慣れるまでベンチを暖める時間は長いだろうけど、そこんとこはオーウェンから盗んで、と。李天秀には負けるな、と。
バルサは、ライカールト監督とチキGMの望みをラポルタが叶えてくれそうになく、現状維持か。レアルもロビーニョ(サントス)やファン・ボンメル(PSV)、ルイゾン(ベンフィカ)を狙ってはいるが、この冬は見送るだろう。気になるのは「私は32歳になる。12月にはクラブと話し合わなければならない。ひとつの決断をするときがきたようだ。一番のオプションはレアルに残ることだ」というフィーゴの未来だ。契約はあと1年半残っているが、1シーズンにひとりの天才と契約を交わすというペレス会長からすればピッチに空席を用意したいところだ。そうでなくても、いまや満員御礼の状態である。強引に家へ戻されたモリエンテスも自由にさせてあげたい。フィーゴはマンチェスターから、モリエンテスはリバプールから誘いがあるともいう。獲得してきた天才を順番にひとりずつ手放さなければペレスの公約は成り立たない。それにしても、いつまで約束を守れるものか。守って欲しいけど。