ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
ハンブルガー狂想曲。
~ブンデスの名門、好発進の陰で~
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byUniphoto Press
posted2009/09/07 11:30
ホフマン会長の積極補強の甲斐あって、ハンブルガーSVは好走するが……
ハンブルガーSV(HSV)は、ブンデスリーガを戦うチームの中で一度も2部リーグを経験していない唯一のチームだ。バイエルンについで2番目に欧州チャンピオンズカップを獲得したドイツの名門でもある。だが、現役時代のマガト(現シャルケ監督)がチームを引っ張ってそのチャンピオンズカップとリーグの2冠を達成した82-83シーズン以来、もう20年以上もリーグ優勝から遠ざかっている。注目度は高いのに、タイトルには手が届かない。
メディアの厳しい批判にさらされるHSV。
彼らの足を引っ張っているのは、メディアからの厳しい目である。ハンブルクは、ドイツの活字メディアの半分以上が拠点とするなど、メディア企業が集中している都市。ヨーロッパ最大の売り上げをほこる「ビルト」紙も、近年本社をハンブルクからベルリンへ移したものの、今なおHSVを大きく取り上げる。
かつてHSVでプレーした高原は自著『病とフットボール』で、ビルト紙について「彼らは本当にリスペクトしていないというか、馬鹿にした記事ばっかりだった」と書いている。たしかにビルト紙はHSVを、面白おかしく、しばしば足を引っ張るような記事を載せて攻撃する。
また、こんなことを語る記者もいた。
「HSVの番記者たちの雰囲気は独特で、アクが強くて、あの中には入っていきづらいものがあるね」
第3節のヴォルフスブルクとの試合後、会見を終えた監督のラバディアがスタジアムの外で記者たちに囲まれていた。その数は20人以上。輪は3重にもなっていた。昨季の優勝争いを演じたバイエルンでもそんな光景にはお目にかかれなかった。しかも、昨年のチャンピオン、ヴォルフスブルクを4-2で下したにもかかわらず、ラバディアは賞賛ではなく詰問を受けていて、その表情は敗軍の将のようだった。
こんな過度の注目とプレッシャーの中で、HSVの監督と選手は戦わなければならない。
うるさいスポンサーを満足させるには……。
ハンブルクは、ドイツで人口第2の都市だ。港町で、横浜の赤レンガ倉庫を大きくしたような倉庫街もあり、観光名所であるアルスター湖もあって、その街並みは美しい。過去には、ビートルズがこの地でライブを重ねて腕をあげていったというゆかりの街でもあり、芸能人や文化人なども多く住む。多くの企業が拠点を置き、地元のビッグクラブであるHSVのスポンサーを務める。
ハンブルクのノルトバンクアレーナのメインスタンドの正面にはスポンサーやVIPのための立派な入口が用意されている。そこを抜けると、スポンサー企業のロゴが入った看板があり、関係者やVIP専用に設けられたスポンサー企業のPRブースがある。さらには、関係者限定ファンショップがあり、スポンサーが試合前に食事をとれるレストランがある。もちろん、そのレストランは無料。レストランはガラス張りで、そこからはスタジアムのコンコースが見通せる。年季の入ったジージャンとよれよれのタオルマフラーを身につけた一般のファンを、横目で見ながら豪華な食事にありつくわけだ。これだけのスポンサーを集めているチームである。成績が思わしくなければスポンサー様からの厳しい注文が飛ぶ。