プレミアリーグの時間BACK NUMBER
プレミアリーグの序盤戦検証。
見えてきた今季優勝候補の本命。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2009/09/10 11:30
バーンリー戦でゴールを決め、祝福されるA・コール(左から2番目)。ドログバ、バラック、テリー、ランパードなど主力が残留し、優勝を狙うに十分な戦力だ
「短所を矯正するよりは、長所を伸ばせ」。
サッカー選手の指導や教育の現場では、よくこんなことが言われる。たしかに減点法よりは加点法で物事を捉えた方が明るい気持ちになれるし、世間の聞こえもいい。
しかし今シーズンのプレミアを眺める上では、「どのチームが戦力アップしたか」という基準よりも、「どのチームの戦力低下が少なかったか」という物差しの方が使いやすい。リーマンショックの後遺症と、「銀河系」という名の「ブラックホール」の影響で、移籍市場におけるプレミア勢の動きは例年になく静かだったからだ。
好スタートのアーセナルだが、「重石」不在で失速か。
まずはアーセナル。ここは開幕戦でエバートンに6-1と大勝。続いてポーツマスも4-1で下し、「4強陥落」が危惧されていたとは思えないほど好スタートを切った。
だが少し古い表現を使えば、序盤で調子がいいのは「想定の範囲内」でもある。もともと攻撃陣には駒がそろっているし、若手が多い分だけ波に乗りやすいが、チームの基本状況は昨シーズンと変わっていない。それどころかベテランの少なさや選手層の薄さ、守備陣の頼りなさといった問題は、悪化した危険性さえある。
8月29日のマンU戦などは、漠然とした不安を裏付ける展開となった。この種の大一番では、ゲームの流れをコントロールできる「重石(おもし)」の存在が不可欠になる。
だが不幸なことに現在のアーセナルには適役が少ない。キャプテンの風格を漂わせ始めたとはいえ、セスクはまだ22歳。しかもマンU戦は故障のために出場できなかった。
本来ならばギャラスが代役になるが、彼は昨シーズン途中のチームメイト批判以来、人望を失っている。かといってファンペルシに精神的支柱になれというのも無理がある。
案の定、アーセナルは試合を1-0でリードしていたにもかかわらず、ルーニーにPKで追いつかれると選手は浮き足立ち、最後はディアビのオウンゴールで逆転されてしまった。 悲しいかな、彼らの魅力の一つでもある若さは、脆さと表裏になっている。
メンタルよりもやっかいなのは、ディフェンス陣の状況だろう。アヤックスからフェルマーレンが加わった以外は補強もゼロ。放出が噂されていたギャラスが、CBとして依然として起用され続けているのが実情だ。
前半戦のアーセナルは好調を維持できるかもしれない。しかし、クリスマスや新年の声を聞く頃に失速していかない保証は、どこにもないのである。