佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
他と同じでは勝てない
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/07/07 00:00
「失敗でしたね」
フランス・グランプリのレース後、佐藤琢磨のコメントの中でいちばん印象的だったのがこの一言だった。すぐに「精一杯トライをしたんですけれども止まり切れなくて、真っ直ぐ行っちゃいました(笑)」と続けたが、彼の言う“失敗”にはふたつの意味があった。ひとつはトゥルーリにアタックした時のスピンである。
今季予選最上位の4位からスタート、バリチェロに抜かれて5位に落ちたものの1回目ピットストップの後、マニ-クールの名物コーナー、アデレイド・ヘアピンでバリチェロを抜き返す。息をも継がず前を行くトゥルーリに接近。インに飛び込んでブレーキをギリギリまで遅らせたがリヤが時計方向に滑り出しハーフスピン!横になりながらエスケープエリアに侵入。態勢を建て直してコースに戻った時は6位から10位に転落。フィニッシュは11位だった。
「スリップストリームに入って車速もぐんぐん伸び、いちばんトゥルーリに近づけていたのでいいチャンスだと思ったんですが、インに飛び込んでフルブレーキングした瞬間にリヤが落ち着かなくて、ダウンシフトもうまく行かずタイヤがロックし、横に滑って止まり切れなかった。失敗でしたね」
二つ目の失敗はレース戦略。上位陣の主流が2回ストップだったのに対し、琢磨は3回ストップを選択。レース後HRDの中本修平エンジニアリング・ディレクターは「トゥルーリを抜く時のスピンがなかったとしても入賞はどうだったかな?
3回ピットストップではバリチェロ(9位)の前か後ろか、琢磨クンが点数取るのは難しかったと思いますよ」と言っている。
3回と2回にレース戦略が分かれたのはそれぞれが選んだタイヤによる。琢磨はグリップのいいソフト、バトンは安定性のあるハード。
「金曜日に比較した時はボクのマシンにはこっち(ソフト)の方が感触がよかった」というのが選択理由で、純粋なタイム比較では0.3秒ほどソフトの方がラップタイムがよかったから、おのずと予選では軽いタンク(少ない燃料)でアタック。ピットストップは自動的に3回となる。しかし、レース当日の天候が琢磨陣営の思惑をはずした。金曜日の最高路面温度が25度だったのに対し、日曜日は43度。
「金曜日ここまで暖かくなかったし、後半になるにつれてどんどんタイヤがきびしくなるというのは見えなかった。今日は摩耗自体は悪くなかったけど食いつきが悪かった。最初はグリップ感もあったんですが、15〜16周目以降はリヤのタレ(グリップダウン)が大きく、今日はタイヤがうまく働かなかった。こればっかりはちょっと残念ですね」と琢磨は声を落とした。トゥルーリを抜く際にリヤが流れたのは「あの頃からリヤのグリップ感がなくて、リヤが先にロックして流れて止まらなかった」からだ。スピンの伏線は金曜日のタイヤ選びにあった。
琢磨とバトンのレース戦略が違ったのは「BARホンダ・チーム始まって以来」(中本エンジニア)という。琢磨もバトンと同じ作戦だったら……というのはたやすいが、結果論である。中本エンジニアは「ベストのタイヤ、ベストの戦略はひとつ」としながらも、あえてこれまでとは違う攻め方をみせた。他と同じことをやっていたのでは、しょせん勝てないのだ。
今回バトンが得点したことで、佐藤琢磨は参戦23人中唯一の無得点ドライバーとなってしまった。今週末はBARホンダのホームグラウンド、シルバーストンでどんな“攻め”をみせてくれるだろうか。