プレミアリーグの時間BACK NUMBER
マンU浮沈の鍵を握る、
ベルバトフの自戒。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAction Images/AFLO
posted2009/12/01 10:30
柔らかなボールタッチでアシストもゴールも高いレベルでこなす。祖国ブルガリアではストイチコフ以来のスターとして扱われている。
プレミアリーグは、11月最終週で全日程の3分の1を消化した。史上初の4連覇を狙うマンチェスター・Uは、首位をチェルシーに譲っているものの、しっかりと2位につけている。
しかし、マンUのアレックス・ファーガソン監督は、珍しくチームの出来にご立腹だ。13節の直前にも「サポーターと同様に不満を覚えている」と語った。自軍に納得できない理由は、ゴール前での詰めの甘さだ。13試合で26得点という数字は悪くはないが、今季は、リオ・ファーディナンドの故障とネマニャ・ビディッチの不調で守備が安定しておらず、攻撃へのこだわりが例年以上に強いように見える。「選手たちはチャンスを逃しても次があると高を括っているのかもしれない。試合を確実にものにする姿勢を見失ってしまっている」と手厳しいコメントを出してもいる。
マンU攻撃陣の鍵を握るのはルーニーだけではない。
奮起が望まれる攻撃陣の中でも特に注目されるのは、ディミタル・ベルバトフだ。今季はセンターFWとしてのウェイン・ルーニーが開幕から注目されているが、ベルバトフは、そのルーニーを生かしつつ自らも得点をあげるという重責を担う存在なのだ。
自覚は十分にある。類稀なセンスのおかげで、無駄を省いたプレーが可能なベルバトフは、「怠け者」、「自己中心的」といった批判を受けることもあるが、実際のところは自信家揃いのストライカーの中で、彼ほど自分に厳しい人物は珍しい。昨季のベルバトフは、他の選手(C・ロナウド)に主眼が置かれたシステムの中で、移籍1年目ながらもリーグ2位の10アシストを記録した。だが当人は、国内紙のインタビューで「失敗に終わった」と昨季の自分を振り返って世間を驚かせた。
「アシストはそれなりにこなしたがゴールが少なすぎた(リーグ戦9得点)。自分で自分にがっかりしている。あの場面ではこうするべきだったとか、ああしておけば良かったとか、決められなかった場面のことを考えると夜も眠れなかった」
才気あふれる“マジック”でベルバトフはゴールを決める。
188cm、79kgの体格と常にクールな表情からは想像し難いが、ベルバトフは非常にセンシティブな選手でもある。当然、「汗」が足らないという批判の声も本人の耳に届いていた。
「気になったさ。心配になってパフォーマンスに関するデータを確かめてみたんだ。そうしたら、試合での自分の走破距離は、その時点でチーム内9位の数字だった。シーズンが終わった時点では4位。今回は1位を狙おうかな(笑)」
実はイメージ以上に走っているベルバトフだが、他にも周囲の批判を賞賛に一変させる「技」を持っている。マンUはもちろん、現在のプレミアを代表する“マジック”の持ち主でもあるのだ。
たとえば、10月末のブラックバーン戦(2-0)での先制ゴール。自分の足元に飛んできたチームメイトのシュートをファーストタッチで完璧にコントロールすると、咄嗟に身を翻してネットに突き刺したハーフボレーは、イマジネーションとテクニックを併せ持つ才人ならではのゴールだった。
それだけに、その試合で負った打撲傷(膝)でベルバトフが戦線離脱し、ルーニーとのコンビがしばしお預けになってしまったのは残念だった。