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ワールドカップ予選を勝ち抜くということ。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byKoji Asakura

posted2005/03/18 00:00

ワールドカップ予選を勝ち抜くということ。<Number Web> photograph by Koji Asakura

 「いったい何点取って勝てば気がすむのか」

 ワールドカップ2次予選の北朝鮮戦を終えての、ぼくの感想である。

 周知のように、2次予選初戦の北朝鮮戦は、小笠原のフリーキックで先制したが、追いつかれ、終了間際のロスタイムにやっと大黒がゴールを決めて勝つという、じつにきわどい試合だった。

 ぼくもこの結果にはおどろいた。北朝鮮はワールドカップ予選になぜか過去12年間出場せず、国内にこもっていて、国際試合の経験があまりないと聞いていたからだ。ワールドカップ予選のような場合は、わけてもその経験の有無がものをいう。だから日本代表も、きびしいスケジュールを縫って数々の国際親善マッチをこなしている。それにもかかわらず、北朝鮮はその日本を相手におそろしくきわどい試合をしたのである。

 しかし、試合後の新聞や雑誌の報道を見ると、ぼくのようにおどろくばかりでなく、日本代表の苦戦に不満を述べる声が相次いだ。

 いわく、格下の北朝鮮相手にこんな苦戦をするとは何ごとか。ジーコの選手交代は遅すぎる。なぜ海外組の高原と中村を先発で使わなかったのか。そして、こんなことでは先が思いやられる、といった声だ。

 それでぼくは、彼らはいったい何点取って勝てば気がすむのかと思ったのである。3対0か。それとも4対0か。

 しかし、思い出してもらいたい。1次予選の相手は、オマーンとシンガポールとインドで、みな格下の相手だったが、圧勝したのはインドに対してだけで、オマーンにもシンガポールにも1点差で勝つのがやっとだった。それは日本がだらしなかったからだろうか。

 もしそうだというなら、フランスワールドカップでアルゼンチンが格下も格下の日本に1対0でしか勝てなかった試合や、アトランタオリンピックでブラジルが日本に0対1で負けてしまった試合、あるいは日韓ワールドカップでフランスが1次リーグで敗退してしまったことをどう考えればいいのだろう。

 ワールドカップというのは、予選であれ本番であれ、世界中のすべての国が同じものを目指して死にもの狂いで戦うのである。したがって、どんな国同士でも、相まみえたときにピッチ上で激突するのは、強い弱いという力ではなく、死にもの狂いの魂なのである。どんなチームでも、死にもの狂いになったチームから1点を奪うのは簡単ではない。だから、ワールドカップではないが、オリンピックでブラジルが日本に負けることもあるのである。

 その死にもの狂いの魂の激突が先日もおこなわれたのだ。北朝鮮も日本と同じようにドイツに行きたいのである。行きたいのは日本だけではない。それだけのことだ。

 ジーコは1次予選のときからずっとこういっている。

 「簡単な試合などひとつもない」

 世界のサッカー選手の中で、おそらくジーコほど死にもの狂いの選手たちの相手になってきた選手はいない。そして、そういう選手たちに敗れてきた選手もいない。彼はワールドカップに3度出て、絶対といわれながら3度とも勝てなかったのである。どうしてそういう人間の言葉を信じないのだろう。

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