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W杯予選の「霧」の中で彼らに何ができたのか。
text by
永井洋一Yoichi Nagai
photograph byKoji Asakura
posted2005/03/03 00:00
あるイギリスの軍人が60年ほど前にこんなことを言っている。「戦いの霧は敵味方に関係なく発生するが、それによって惑うのは、混乱した思考と修練不足によるもので、戦いの霧によるものとは峻別しなければならない」。「戦いの霧」とは、戦場という非日常空間で生じる、正常な判断や行動を妨げる不測の要素のことであろう。
W杯予選という「霧」は、日本にも北朝鮮にも様々な形で視界不良を強いてきた。その中でのロスタイムの勝利。北朝鮮の試合運びがまるで高校生のように真っ正直だったこと、GKが明らかに経験不足だったことが命運を分けたのかもしれない。日本の不甲斐なさを嘆き、北朝鮮の健闘を讃えることはたやすい。表面上は両者の間にはほんの数分、数十センチの差しかない。しかし、その差を埋める「修練」にどれほどの時間と経験を必要とするかも考えておく必要もあるだろう。我々がその数分、数十センチを実感させられたのは'93年のドーハだった。