ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER

変化がもたらした敗北と不安 

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木ノ原久美

木ノ原久美Kumi Kinohara

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photograph byNaoya Sanuki

posted2005/03/25 00:00

変化がもたらした敗北と不安<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 システムが変わり、人が変わる。選手たちの迷いがそのまま試合に出た形になった。

 W杯アジア地区最終予選の第2戦が3月25日に行われ、日本はテヘランでイランに2−1で敗れ、昨年から始まったW杯予選を通じて初の黒星を喫した。

 この結果、この日北朝鮮に2−1で勝利したバーレーンとイランが勝ち点4でB組の首位に並び、勝ち点3の日本は首位から3位に転落。4位に北朝鮮という順位になった。

 この試合に向けて、日本代表のジーコ監督は久々に4バックを採用することにし、ドイツ合宿以降、紅白戦で何回か試していた。FWダエイを中心にハシェミアンとマハダビキアが左右に開く3トップ気味のイランの布陣を想定して、また、ほぼ1年ぶりに代表復帰したMF中田英寿を使おうという監督の思惑だったと思われる。

 だが、本番を目前に控えたテヘランでの練習でも、マークの受け渡しなど選手間で調整がうまくとれないまま、多くの選手が不安と戸惑いを異口同音に唱えていた。そして、彼らの迷いを抱えたままのプレーが、決勝点となった75分の2失点目に象徴された格好だ。

 ドリブルで中盤を上がったMFマハダビキアから右サイドのMFカリミへスルーパスが渡り、カリミからのクロスボールを受けたFWハシェミアンがヘディングで日本ゴールに叩き込んだ。

 このとき、ボールを取りに行ったDF三浦がかわしたマハダビキアは、誰からもプレッシャーを受けないまま中盤を上がり、楽にカリミへスルーパスを出し、カリミは慌てて寄せて来たDF中澤をものともせずにクロスボールを送っている。ゴール前にカバーに入ったはずのDF加地もハシェミアンを捕まえきれず、競り合っていない。あれよあれよという間にボールが回されて、センターバックが引き出され、中が空いたところを使われて失点した。

 しかもイランはダエイとハシェミアンの2トップ。第1戦をバーレーンと引き分けて是が非でも白星が欲しいイランは、立ち上がりこそ動きが硬かったが、次第にマハダビキアやカリミらを中心に攻勢に出る。そして、前半25分にFKからゴール前でこぼれ球を得たハシェミアンが先制点を決めてリードを奪い、その後も攻勢に進めていた。

 日本は高原と玉田の2トップが相手のプレッシャーを受けて足元にボールが収まらず、攻撃を組み立てられない。このため、イランにいつもの勢いがなかった試合開始後や日本が66分のMF福西のゴールで同点にした直後の時間帯をうまく利用できなかった。逆にボールを失って、日本が逆襲に遭う場面が続いた。

 高原は「どのタイミングで動けばボールが来るのかわからなかった」と話し、MF中村も「相手の穴を探すというより、自分たちの攻撃(の形)を探してしまった」と言った。

 混乱はファウルという形でも見られた。勢いづいた相手への対応が送れて後追いになり、慌ててファウルで止める。このパターンでMF小野が不要なファウルで警告を受け、次戦は出場停止になってしまった。

 さらに腑に落ちないのが同点にした後の監督の采配だった。アウェイで同点に追いついた後なら、試合を落ち着かせ、守備を固めてさらなる失点を避けることは選択できた。

 だが中村によれば、1−1になった後ジーコ監督の指示は「(攻めて)行け」だったという。中村は、「以前はアウェイの戦い方があった気がするが、今回は統一していなかった。やっているうちに失点してしまった」と振り返った。

 昨年のアジアカップやW杯1次予選を通じてチームは成長したはずだった。ジーコ監督も「去年までのチームとは違う」と自信を見せていた。システムやメンバーの変更を加えても対応できる力がついたと踏んでいたのだろう。だが現実には、チームのパフォーマンスは、依然としてこれらの要因に左右されている。

 「イラン、バーレーン、日本の3チームが接戦になったが、まだ何も決まっていない。負けはしたが悲観するような内容ではない」。

 ジーコ監督はそう言ったが、問題が未解決のままでは残り試合での勝利を無邪気に期待するわけにもいかない。しかも、バーレーン戦は30日。中4日で戦わなくてはならない。短時間にこの敗戦からなにかを掴んで、次戦で生かすことができるのか。

 まずはイラン戦の負けを引きずらないように、気持ちの切り替えが重要になる。いま再び、チームの対応力が試されている。

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