MLB Column from WestBACK NUMBER
松井稼頭央は、
ロッキーズに残れるのか。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGettyimages/AFLO
posted2006/10/11 00:00
いうまでもなく、現在プレーオフ真っ盛りのメジャーリーグなのだが、今回は契約最終年だったメジャー3年目を終えた松井稼頭央選手を取り上げたい。
シーズン途中で、自らの意志によって出場機会を求め、トレードを受け入れてロッキーズに移籍した松井選手。チーム合流後3Aでの調整中に腰痛で戦線離脱するハプニングもあったが、メジャーに復帰してからはオフから取り組んできた打撃改造が徐々に効果を現し、ロッキーズが期待したとおりの活躍ができたのではないだろうか。
「ひじょうに若いチームで環境的にやりやすかった。監督、コーチに感謝してます。思い切りやらせてもらったし、いいものが出る回数も多かった。それだけの結果も出せたんじゃないかと思いますし、トレードで来て、良かったと思います。」
9月28日にホーム最終戦を戦い終えた松井選手は、納得したように話した。もちろん成績もそれを裏付けている。シーズン打率こそ.267だが、ロッキーズ移籍後の打率は.345で、特に本拠地クアーズ・フィールドでは.411を残している。シーズン終盤は、それまで正二塁手だったジェイミー・キャロル選手を押しのけて出場機会を増やしていった。
「マツイは日本で活躍していたようなプレーが再びできると考えたから獲得した。キャロルとともに最高のリードオフを果たしてくれた。だがマツイの能力はまだまだこんなものではなく、もっとできると信じている」
クリント・ハードル監督の発言を見ても歴然としているように、ロッキーズは松井選手のプレーに上々の評価を与えている。そこで彼が来シーズンもすんなりロッキーズに残留できるかといえば、「?」をつけざるを得ないのだ。
ここで簡単に松井選手の置かれた状況を説明すると、現時点でもロッキーズが松井選手の保有権を持っており、来季以降の契約交渉を行うことができる。しかし両者の間で交渉が決裂した場合、松井選手はFAとなり、日本を含めた他チームとの交渉ができるようになるわけだ。
「打線に活気を与えてくれた。来シーズンも戻ってきてほしい。だがマネーゲームには加わらないだろう」
すでにハードル監督のコメントが日本でも報じられているように、基本的にロッキーズは松井選手と残留に向け交渉を行っていく予定だが、年俸に関しては松井選手の希望通りの額を用意しない方針を明らかにしている。今シーズンの松井選手の年俸は800万ドルといわれているが、過去3シーズンの成績を考慮すれば、年俸ダウンも必至だろうし、もちろんその辺りは松井選手も承知しているはずだ。しかし年俸以外でも、松井選手が憂慮しなければならない問題があるらしい。ロッキーズの番記者であるデンバー・ポスト紙のトロイ・レンク記者は、以下のように説明してくれた。
「ロッキーズがマツイを気に入っているのは間違いない。特に彼のスピードは、これまでチームがずっと必要にしていたものだった。だが一方で、二塁手としてキャロルの活躍も評価しているのも事実。契約交渉でロッキーズは、マツイに対し先発二塁手の座を保証せず、キャロルとの併用を打診するはず。それでマツイが納得するかどうかはわからないし、シーズン後半の彼の活躍を見て他チームが正二塁手の座を用意する可能性も十分にある。交渉がまとまる可能性は50%だと思う」
すでに来季もメジャー残留希望を表明している松井選手サイドとしても、ロッキーズ残留で納得するか、それとも他球団のオファーを期待してFAの道を選ぶのか難しい選択を余儀なくされるだろう。
読売新聞の下村記者が、松井選手の「やり残したことはある」という言葉を紹介しているが、本人にとってもこの3年間は不完全燃焼だったことだろう。前述通り、今シーズンの松井選手はずっと打撃改造に取り組んできた。今年は何度となく取材に回ったのだが、暇があればフォームをチェックし、とにかく直向きにバットを振り続ける松井選手の姿を目にしてきた。有り余る才能とは裏腹に、野球に対する彼の泥臭さ、不器用さに共感させられたりもした。
そんな松井選手が、成績が伴うごとに「これまでやってきたことが間違ってなかった」と発したように、シーズン終盤は確実に自身の打撃に自信を深めていった。もちろんこのオフも、さらなる打撃改造の完成を目指して懸命な自主トレを行うという。松井選手ならずとも、1年を通してどれだけ活躍できるのか、来シーズンもメジャーのグラウンドでその勇姿をみたいものだ。
最後に余談だが、ディビジョン・シリーズのカージナルス対パドレスの取材中に、カージナルスが故ダリル・カイル投手の2人の息子を第2戦に招待し、試合前の打撃練習から自由にグラウンド、クラブハウスで遊ばせていた。不幸な死から4年経った今でも、球団が家族をサポートする姿勢に、改めてメジャーの魅力を痛感した次第だ。