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今こそ新ルールを。五輪を巡るクラブと選手。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2008/08/08 00:00

今こそ新ルールを。五輪を巡るクラブと選手。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 北京五輪への参加を巡り、ディエゴがブレーメンと、ラフィーニャがシャルケ04と対立している。ドイツでプレーする選手で今回の五輪に参加するのはこのほかに、ブラジルのブレーノ(バイエルン)、アルゼンチンのソサ(バイエルン)、ベルギーのオフォエとコンパニー(ハンブルク)、カメルーンのマンジェクらだが、彼らはチームを長期離脱してもそれほど影響のない選手である。唯一、コンパニーだけは「五輪は2試合まで。すぐに帰国して15日の開幕戦に出場」の条件を付けられた。しかしディエゴとラフィーニャは違う。どちらもチームになくてはならない存在である。

 いまさら説明するまでもないが、ディエゴは文字通りチームの大黒柱。彼が抜けたブレーメンは「クリープのないコーヒー」(古いキャッチフレーズだなぁ)みたいなもの。ソースを付けないトンカツ、シロップをかけないカキ氷、ホステスが隣に座らないスナックと同じくらい味気なくなる。

 ブラジルは7日、10日、13日とグループリーグを戦い、これを勝ち抜くと16日、19日、23日(3決は22日)と続く。3日に1度という恐ろしいスケジュールである。同じころ、ブレーメンは16日にビーレフェルト相手に開幕戦をやり、翌週の23日はシャルケ戦である。

 ディエゴの言い分は「決勝戦まで残ったとしても、ブンデスリーガは最初の2試合に欠場するだけ。30日の第3節から出場できる」からチームにはそれほど迷惑をかけない、というものだ。大一番のバイエルン戦は9月20日、それまでには万全のコンディションに戻っているというのも計算の内である。

 だが、シーズン開幕直前に長期間チームを離れ、もしも大会でケガを負って帰国しようものなら損害は計り知れない。それに給料を払うのは我々であり代表チームではない。雇用主の命令に従えないのか、とはクラブの主張。聞く分には、こちらのほうが理屈が通る。

 そうはいっても五輪は4年に一度。代表でどうしても実績を築きたいディエゴにとってはそうそう簡単に出場を諦められない。春先からクラブと話し合いの機会を持とうとしたが、クラブは耳を貸さない。折しもFIFAが「23歳以下の選手を北京五輪へ派遣するのは、クラブ側の義務だ」とする決定を行なったことで、ディエゴはクラブの許可なしで五輪チームに参加する強硬手段に打って出た。これがクラブを激怒させた。

 ブレーメンは同じ問題を抱えるバルセロナやシャルケと共同歩調を取り、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服を申し立てた。そして6日、CASはクラブ側の訴えを認める裁定を下した。前段だけで判断したら、これで一件落着となるところだが、CASは後段で「国内五輪委員会によって認められた選手の五輪参加資格を否定するものではなく、当事者間の良識による解決」を勧告したのである。つまり、建前上はクラブの勝利だが、実質上はお互いの話し合いでどうにかしてくださいよ、とまるで軽度の交通事故を巡る裁判例と似た決着となったのだ。

 クラブが強硬な態度を崩さないのは、ふだんから選手をあの手この手で厚遇しているというのに、肝心な時にわがまま勝手をすることへの反発も背景にあるのだろう。住居、通訳、高級車、税金対策など1人のスター選手にかかる経費(関係者の労働時間を含む)は莫大である。それだけやってあげてるのに、合宿に参加せずリーグ戦も欠場するでは間尺に合わない。

 ヴォルフスブルクのマガート監督は「契約に従わない選手に対しては厳しい制裁を科すべきだ」として、「1〜2年の出場禁止も考えたほうがいい」と守旧派の代表格らしい考えを表明している。

 しかし、もう1人の守旧派であるローター・マテウスは「クラブも選手も、こういった場合に備えてキチっとした決まりごとを作るべき」「彼らは大会にかける意気込みが違うのさ。クラブはまず南米の協会と話し合うべきだったな」と、この人には珍しく理性を前面に押し出して指摘する。バイエルンが事前に2つの協会と協議し、「ブレーノとソサは出場OK、ルシオとデミチェリスはNG」の合意を得た抜け目なさを知れば、マテウスの話には納得だ。彼もたまには良いことを言うのである。

 FIFA主催ではない五輪がリーグ戦の日程とバッティングし、オーバーエージ枠で誰もが出場できるチャンスを得たことで、ブンデスリーガは新たな問題に頭を悩ましている。真の解決までに道は遠いことだろう。

 それにしても、五輪といったらスポーツマンにとって憧れの舞台である。賞金にもボーナスにも関係ない大会へ、どうしてすでに大金持ちであるディエゴやラフィーニャが出場を切望するのか。そこらへんにクラブも考えを巡らせてほしいなと思う。

 選手を喜んで送り出せないクラブ、すっきりしないまま大会に出る選手。これじゃ、双方にとって不幸なままである。8月23日の第2節はシャルケ対ブレーメンの一戦だ。渦中の選手同士の対決である。五輪でブラジルが決勝戦に進んだ場合、2人の姿をドイツで見ることはできない。だが途中で敗戦していたら、これがシーズン初出場になる。そのとき、地元ブレーメンのファンがディエゴに対してどんな反応を見せるのかが注目される。世論が分かり、ファンの“大人度”も試されるからである。

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