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名物コースの誕生
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/08/29 00:00
55年になんなんとするF1世界選手権史上初めて開かれたトルコ・グランプリは少なからぬドラマを生んだが、舞台となったイスタンブールパーク・サーキットのレイアウトそのものがドラマ製造装置であった。
設計はいまやF1御用達となった感のあるドイツ人ヘルマン・ティルケ。マレーシア、バーレーン、上海など新しいF1サーキットはすべて彼の手になるもので、また、リニューアルされたホッケンハイム、富士スピードウェイのリ・デザインもティルケである。
イモーラ、インテルラゴスと同じ反時計回りのイスタンブールパークには三つの名物ポイントがあった。
ひとつは4つの多角形が連続する中速コーナーの“ターン8”で、シューマッハーいわく「いろんなラインが取れそうなコーナー」だが、走りが上手く決まると250km/hできれいな弧を描いてクリアできる。
次は登って右に折れる“ターン10”で、ここは続くバックストレッチの進入速度を高めたいがために、どうしても無理をしてダートに出てしまうところである。
三つ目は長いバックストレッチ。鳥瞰図でみれば“く”の字に折れた、曲がった直線(!?)だが、前車が抜きにくい現代のF1サーキットにおいて、ここは十分オーバーテイクできる場所。そしてドラマはこの三つのポイントで起きた。
土曜日の午前中まで絶好調だったホンダ勢が予選で失敗したのがターン8。佐藤琢磨はバンプで跳ねてボトミングを起こし、コースオフ。バトンも似たような現象でコントロールを乱し、下位に沈んでしまったのだ。
予選で第一区間を上位陣と遜色ないタイムでクリアしたシューマッハーだが、ターン10でスピン!コースには復帰したもののゆっくりとピットに入ってノータイムとなった。
決勝ではポールシッターのライコネンのインを予選2位のフィジケラが奪って1コーナーをクリア。これは面白い展開になる……と思った矢先ターン10でタイヤをダートに落として失速。これをライコネンが見逃すわけもなく、バックストレッチで横に並びブレーキングで前に。翌周はアロンソが同地点でチームメイトのフィジケラを抜いてライコネンを追う。
シューマッハーはエンジンを換装したこともあって最後列からのスタートとなったが、すぐに中団まで浮上。しかし周回遅れのウエーバーをバックストレッチ・エンドで抜いた際に接触、スピン。それが元でリタイアとなった。イスタンブールの週末、名手シューマッハーは少なくとも5回以上のミスを犯した。
圧巻は終盤の数周。2位にいたモントーヤがバックストレッチで周回遅れのモンテイロに追突され、スピン、コースオフ。すぐにコースには戻れたがアロンソが背後に迫る。モンテイロに追突されたダメージで大事なボディワークの一部(ディフューザー)が壊れてダウンフォースが低下したのだろう、ターン8を単独コースオフ。戦線に復帰した時、アロンソははるか先を走っていた。
ドライバーのミスを誘い、コース上での追い抜きがふんだんに見られるイスタンブールパーク。F1にまたひとつ名物コースが増えた。