カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:東京「あれ!?」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2008/04/03 00:00
土曜日にJリーグの試合を観戦に行った。
スタジアムの最寄駅について、“異変”に気がついた。
これと同じ経験は、実は初めてではないんだなぁ……。
自分の馬鹿さ加減というか、間抜けさ加減に愕然とする瞬間が、僕には時々ある。僕を知っている人からは、時々か!?と突っ込みを入れられそうだが、それはともかく、最近では、むしろ「俺って案外マトモじゃん」と思う瞬間の方が、勝り気味だっただけに「土曜日」に起きた出来事は、十分なインパクトがあった。
土曜日、14時に味スタで行われるFC東京対京都サンガの試合を見るために、僕は12時40分に自宅を出た。所要時間はドアトゥードアでジャスト1時間。キックオフは14時なので、その20分前には到着しているはずだった。それが、スタジアムに辿り着いたのが「翌日」になろうとは……。
まず、原宿から山手線に乗って京王線の始発駅である新宿に向かおうと、原宿駅に到着すれば、人身事故のため、山手線は現在運転を見合わせているとのアナウンス。もちろん、その程度のアクシデントで動じるほどのヤワではない。僕はすかさず、脇の階段を下り、明治神宮前駅のホームを目指した。千代田線、小田急線、井の頭線、京王線を乗り継いで飛田給を目指すことにしたのである。
到着したのは、代々木上原駅で買ったスポーツ紙を読み終える頃だった。様子がおかしいことにはうすうす気がついていた。京王線の車内にそれらしきムードが感じられなかったからだ。FC東京のサポーター風の人物を、そこに1人も見かけることができなかったのだ。満開の桜を楽しもうと、花見にでも行っているのかなと、彼らのサポート精神に疑いを抱いたりもしたが、改札を抜けると、間抜けなのは僕の方であることを完全に自覚することになった。
そうなのである。僕は試合日を1日、間違えてしまったのだ。試合は、土曜開催ではなく日曜開催だった。
翌日、味スタには1万9233人の観衆が駆けつけたが、その中に僕と同じような過ちを犯していた人は何人いるだろうか。ゼロだと思う。ということは、僕は約2万人の中で、最も馬鹿なヤツだという話になる。
しかし、なにを隠そう、僕が試合日を間違えたことは、これが始めてではない。困ったことに、昨シーズンもしでかしていたのだ。
川崎フロンターレのホームゲームだった。この時も、武蔵小杉の駅に到着して初めて異変に気づくという失態を演じている。
海外でもやらかしている。水曜日に行われるCLの試合現場に、火曜日に出かけてしまったのだ。それは同時に、火曜日に行われる試合を水曜日だと勘違いし、見逃してしまったことを意味していた。
さらに言えば、ゴルフでも経験がある。プレイ日の一日前にゴルフ場に行ってしまい、フロントのスタッフに哀れな目で見つめられた経験が。
「カンポ」に出かける回数は、一般の人に比べれば圧倒的に多いとはいえ、これはひどいと言わざるを得ない。
いや、まだありました。明日、欧州に向けて出発だとばかり思っていたら、実際には、一週間後だったということが。担当編集者に「では、明日から行ってきます」と挨拶したら「何処へ行くの?」と聞き返されて、初めて間違いに気づいた次第だ。それも、今シーズンの話である。
普通の人間なら、ダメ人間から脱しようと、ここで一念発起しようとするものだ。日頃の行いを反省しようとするに違いない。ところが僕には、その精神があまりない。へこたれないのだ。そんな自分を、むしろラブリーな奴だと、微笑ましく思ってしまう癖さえある。土曜日の場合も、10分と経たぬうちに、ショックから立ち直っていた。
しかし、世の中はそんな僕に、新たな問題を浴びせかけてきた。再び明大前駅に戻ると「下高井戸で人身事故があったため、井の頭線は、現在運転を見合わせております」とのアナウンスが、耳に入ってきたのだ。
人身事故はこの日2度目。こんなことがあるのかと唖然としつつも、駅員に復旧までの時間を訊ねれば「目処は立ちません」との答え。
僕は下北沢まで歩くことにした。明大前から距離は時間にして約30分。その昔、東松原に暮らした経験があるので、この辺りには土地勘がある。駅のホームでいつ復旧するか分からない電車を待つよりも、花見でもしながら、昔を懐かしみつつ、てくてく歩いた方が健康的だと思ったからである。
ところが、明大前駅を背にして5分ほど歩いたその時だった。警報機の鳴る音が耳に飛び込んできたのは。ほどなくすると、井の頭線の車両が、線路を通過する音も聞こえてきた。復旧の目処が立っていないはずではなかったのか!
とはいえ僕は、駅員のいい加減な対応に、さほど腹が立たなかった。僕も僕だからである。そもそもこの原因は、自分が蒔いた種にあるのだ。むしろ僕は、笑い出したいくらいだった。満開の桜も、薄ピンクに染めた花びらをこちらに傾けながら「アンタはホントに馬鹿ですネェ」と、語りかけているようだった。
土曜日は、自分の姿を再確認した一日になった。そう考えると、奇妙ではあったが、無駄な一日ではなかったことになる。
しかしこれを持って原稿を締めるわけにはいかない。もっと真面目にやれと、腹を立てる人がいそうなので、日曜日に行われた試合についても一言、触れさせてもらうことにしたい。
「今野は間違いなく良い選手である!」
オマエの発言には重みがないと叱られそうな気もするが、これは事実。彼はいまの何倍も注目されていい名手だと僕は確信している。