オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
3大陸トーナメント VS.オーストリア
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2007/09/11 00:00
相手が変わっても場所が変わっても、問題はアジアカップのときと変わらなかった。決定力不足。
オーストリア南部のクラーゲンフルトで、9月7日、2008年欧州選手権共催国のオーストリアと対戦した日本は0−0で90分を終了。引き続いて行われたPK戦に3−4で敗れた。
8月上旬に負傷したFW高原の招集を見送ったオシム日本代表監督は、この試合と11日に予定されている、もう一つの欧州選手権共催国であるスイスとの2連戦を、高原不在時のチーム戦力をテストする機会と位置づけていた。フランクフルトで活躍するエースFWが、ケガや出場停止などでこの先の試合で起用できない場合を想定し、彼以外の戦力がどこまでできるかを試そうというものだ。
この日のオーストリア戦では、浦和で好調のFW田中達也と新潟FW矢野の2トップを起用した4−4−2で臨んだが、残念ながら満足の行く結果は得られなかった。
オーストリアは2センターバックを中心に、田中、矢野の2トップやMF中村俊輔らにプレスをかけ、彼らの自由を奪おうとする。ディフェンスを固めてカウンターを狙うホスト国を相手に、日本はパスをつないで攻めを組み立てようとするのだが、前線でボールが納まらない。ボールを失っては、上がりかけた残りのメンバーが、ディフェンスに戻る。
押上げやサイド攻撃はなりを潜め、全体の動きも鈍い。日本のパスコースを消すオーストリアの守備に、日本の選手がボールを持って出しどころを探す場面が増えていた。
これが代表5戦目で、先発は6月1日のモンテネグロ戦以来2戦目という矢野は、大柄な相手ディフェンス陣との対戦に慣れていないのか、プレッシャーを受けて転ばされることが多かった。
試合前日にオーストリア監督ヒッケルスベルガーが、「アジアカップのカタール、オーストラリア、韓国戦、8月のカメルーン戦のビデオを見て、選手に日本の情報は伝えてあるから、日本の出方はわかっているはず」と話していたが、本当に、サイドチェンジやパス展開などの日本のプレーは「研究済み」という感じで、カットされた。
前半23分に田中達也がMF遠藤のFKのリバウンドに反応して、ペナルティエリアの右からバーを叩き、後半早々にも、DF闘莉王からのロングボールを後ろに流した矢野のヘディングに浦和FWが反応して、ドリブルでシュートまで持って行き、ボールが右ポスト外を流れるという場面を作った。しかし、全体には日本の攻撃に閉塞感が漂っていた。
試合後、敵将ヒッケルスベルガーには、「FWに得点力がなかったおかげでこちらは得点をされずにすんだ」と指摘され、また、地元記者がオシム監督に「得点力不足は欧州でプレーできるレベルのFWがいないせいなのか?」と聞く一幕もあった。
日本の指揮官は、「フランクフルトでプレーしているFWがいる」と高原の存在に期待を示したが、Jリーグではブラジル人FWが多く日本人の活躍の場が少ないという現状を説明して、日本人FWの人材不足を認めた。さらに、「ボールを奪ってからゴールに向かうまで距離がある。もっと効率よくチャンスを作らないといけない」と、チームの攻撃の組み立てに注文をつけた。
そういう日本に、期待できる面があるとすれば、後半26分に矢野に代わって出場したMF松井だろう。
松井が入って1トップ+3枚の2列目で4−2−3−1という形に変わり、松井のドリブルで縦に仕掛けるプレーが刺激となって、全体の動きが活性化した。個人で突破する効力が示された例ではないだろうか。
中村俊輔は「チーム全体がいい形を作ろうとしすぎるところがある。もっとどんどん自分でやっていいと思う。戦術を実戦しつつ、個人の判断を出していけばもっとよくなる」と話した。
求められているのは、チームの中で生きる個、それも得点へつながる個の出し方の判断ではないだろうか。