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不揃いの選手たち。辛勝に課題は残る。
text by
佐藤俊Shun Sato
posted2007/09/06 00:08
まるで2次予選の初戦、香港戦のビデオを見ているようだった。チャンスは作るが決められない。選手は個人プレーに走り、コンビネーションがない。あげくに中盤でミスを連発し、相手のカウンターを喰らう。お互いに顔を見合わせるシーンが度々起こり、選手たちのイライラしている様子が伝わってくる。前半ロスタイムにCKから青山直晃があげた1点がなければ、どうなっていたことか。
実は試合前、水本裕貴は、厳しい表情で、こんなことを言っていた。
「ベトナム戦をあの香港戦の二の舞にしちゃ絶対にいけない。そんな試合を最終予選でしているようじゃ北京には行けない」
2月28日に行われた香港戦は、3-0という結果はともかく、最悪の内容だった。反町康治監督は「収穫は勝ったことだけ。ガッカリした」と吐き捨てた。シュートを1本も打てず交代させられた李忠成は、「練習でしてきたことと違う」と憤慨し、他の選手の口からも、反省と課題が続々と噴出した。あれから半年、最終予選で同じような光景を目にするとは、思ってもみなかった。
7月末の神戸合宿。最終予選に向けて始動した五輪代表に、U-20W杯カナダ大会でベスト16の成績を残した「カナダ組」が合流した。その後、中国で行われた4カ国トーナメントに参戦し、主力不在で結果こそ1勝1敗1分けに終わったものの、新しくチームに加わった梅崎司や福元洋平らは持ち味を見せた。
結局、ベトナム戦に招集されたカナダ組は、安田理大、内田篤人、柏木陽介、林彰洋のわずか4名だったが、それでも加入の効果は大きかったようだ。水野晃樹はこう言った。
「若いのは元気いっぱいだよ。練習の雰囲気もいいし、みんな声が出るようになってきている。今までの五輪代表にはなかったことだからね。そういう小さなところから成長できて、いい刺激になっているよ」
初招集の安田は、自信満々だった。
「自分らが五輪代表に入って、明るくなっただけだとか言われるけど、それだけじゃない。ほんまに大事なんは、気持ちの部分でしょ。実際チームに入って、気持ちを出しているつもりやけど、それが見えへんっていうのは、まだ何か足りへんからやと思う。もっと気持ちを出していけば、もう1歩、もう1メートル詰めていけるやろし、そうなればもっと点も入るし、逆に失点は減ると思うんで」
この両世代の融合こそが、最終予選突破の重要なキーワードだった。
しかし、不安がないわけではなかった。五輪組の主力が練習に参加したのは、神戸合宿の数日間と、ベトナム戦直前のたった3日間のみ。特に安田、内田ら他との連携を必要とするDFにとっては、あまりにも時間が足りなかった。実際、安田は「守備のことで相当言われて、自分の甘さに気が付いた」と、試合前日の練習で言っていたほどだ。
リーダー不在も以前からの懸案事項だった。ずっと伊野波雅彦がキャプテンマークを巻いてきたが、仲間を叱咤し、先頭に立ってチームを引っ張るタイプではない。「これからは自分がリーダーシップを取っていく」と宣言した水本も、シドニー五輪の時の宮本恒靖、アテネ五輪予選の時の鈴木啓太のような精神的支柱に成り得るかは、まだ未知数だ。
また、平山相太のコンディションも大きな不安要素だった。FC東京では試合に出ておらず、5月の香港戦以来、流れの中でのゴールはあげていない。平山の高さは、相手にとっては脅威だが、彼の精神的な脆さを知る選手たちは、チームにとって両刃の剣になる危険があることを理解していた。その危険を最小限に止めるために、平山を盛り上げていくことがチームの重要事項になっていった。
チームは平山にボールを集めて、彼の高さと強さを最大限に生かそうとした。そして、カナダ組の柏木を先発起用して、化学反応が起こることを期待したのだが……。
「ボール回しをなんとなくやっている感じでしたね」
前半、日本のボール支配率は約64%にも及んだ。しかし、攻撃は右サイドに偏り、水野がひたすらクロスを放り込むだけしかなかった。
「攻撃が単調だった」
青山直晃はそう言った。1トップをセンターサークル付近に置き、9人で守るベトナム守備にスペースはほとんどない。対して日本は、ボールを回しながら彼らがチェックに出て来るのを誘っていた。だが、ベトナムはそれに乗らず、冷静に守備のブロックを築き、時には体を張って必死に守った。そのせいか、中盤でボールを失う機会が増え、カウンターを喰らうようになった。
「ボール回しをなんとなくやっている感じでしたね。回すなら回す、裏を狙うなら狙う、(平山)相太の頭を狙うなら狙う。それを徹底できなかったんで、単純にボールを失い、リズムも失ってしまった」(水本)
思い出すのは、アジアカップでのA代表の戦いだ。引いた相手に対して同じリズムで横にパスを回すだけで、パススピードを速めたり、ワンツーを加えたり、ミドルシュートを打ったりという工夫がなかった。試合に出場した水野は、それを体感していたし、五輪代表の選手たちもそれをテレビで見ていた。
「アジアカップの時は、ペナルティエリアの手前までは攻められてもそこからが課題だった。そこで慎重に回してもしょうがないんで、思い切ったプレーをしていかないと」(水野)
「ああいう戦い方をすると、攻撃が単調になるし、相手は守りやすい。バリエーションを増やしていかないと。それは、みんな分かっていると思う」(安田)
どの選手も脱アジアカップの戦いをイメージはしていた。しかし、現実には点を取りたい気持ちだけが先行し、相手を崩す攻撃のバリエーションは、ほとんど見られなかった。
後半は、膠着した状態が続いた。柏木は、前半に見せていた積極的な飛び出しが影を潜め、徐々に存在感を失っていった。代わって入った家長昭博が状況を打開しようとしたが、平山がチャンスを決めきれない。後半34分には、家長からのクロスに自ら呼び込む体勢を取りながら、やって来たボールの対処を誤りハンドを犯すなど、FWらしからぬ失態も演じた。トラップミスなどボールコントロールのミスも多く、Jリーグでの出場機会が少ない弊害が、露骨に出てしまった。
試合終了間際には、与えてはいけないFKから冷汗をかくシーンもあった。香港戦では後半に2点を奪って3-0で終えたが、この日は最後まで追加点を奪えず、まさに薄氷を踏む辛勝に終わった。
試合後、7本のシュートを放ちながらゴールを奪えなかった平山は、「今日の出来は0点」と、自らの腑甲斐なさに俯いた。「相太が点を取れなかったのは、ラストパスの精度が悪かった自分の責任」と水野は弁護したが、肝心のフィニッシュで正確さを欠いた平山には、ガムシャラに点を取ろうという姿勢も見られなかった。オシム監督なら「サラエボには2回チャンスはやってこないという格言が……」と、最後通告を突き付けただろう。反町監督は、今後も平山をFWの核として起用し続けるのだろうか。
カナダ組で唯一出場した柏木は、いつも通りのプレーを見せてくれた。
「1本でもシュートを打って終わりたかったですね。もっといいプレーをしたかったし、自分のプレーを見せたかった。だから、悔しい部分もあります。でも、U-22に違う動きをもたらせたと思う」
だが、思ったほどチームには噛み合わなかったことも事実だ。水野は「陽介は一緒にやって、まだ3日なんでしょうがない。もうちょい時間がかかるけど、それがハマれば絶対に強くなる」とフォローしたが、カナダ組や柏木を取り巻く状況は甘くはない。
U-20代表で見せた彼の良さは、持ち前の運動量を生かし、DFの裏に飛び出し、ペナルティエリア内で仕事をすることだった。しかし、ハーフタイムに柏木は、反町監督から「裏に飛び出しすぎ」と注意されたという。
柏木が持ち込もうとした従来の五輪代表になかった動きは、修正を求められ、評価されなかったのだ。反町監督は、いったい彼に何を望んだのだろうか。
試合前に懸念していたことが次々と現実となり、最大の関心事だった世代間の融合による効果も、目に見えるものはなかった。むしろチームは、精神的にも戦術的にもひとつになり切れていない姿を露呈した。試合後のミックスゾーンでは安田のように不甲斐ない試合に怒りを露にする選手がいる一方で、まるで他人事のように試合を分析する選手もいた。また、柏木のように規格外のプレーを持ち込もうとしても却下されれば、川淵キャプテンが言う「ピチピチ感」にはほど遠い、2次予選の時のサッカーに逆行していくばかりだ。
水本は、危機感を隠さない。
「もう下とか上とか言ってられない。クラブに戻れば泥臭い仕事をやってくれたり、パスを出せば点を取ってくれる選手がいるけど、そういう選手は五輪代表にいない。人に頼らず、みんなでやるしかない。自己犠牲をいとわず、もっと戦う気持ちを持ってプレーしないと、サウジやカタールに通用しない」
こうした気持ちを、どうチームに浸透させていくのか。9月8日に行われる次のサウジ戦まで、時間の猶予はほとんどない。「課題だらけ」と水野が言うように、あらゆる事が不揃いなチームの方向性は、最終予選が始まった今もまだ見えてこない。