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それぞれの鈴鹿ラストラン
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/09/21 00:00
来る10月8日の日本グランプリ(鈴鹿サーキット)は、さまざまな意味で見逃せない一戦であり、あえてタイトルらしきものを冠せば「それぞれの鈴鹿ラストラン」とでもなろうか。
まずは鈴鹿サーキットを舞台にした日本グランプリが最後である。
1987年から20年間続いた伝統のグランプリであるが、来年からはその座を富士スピードウェイに譲ることがすでに決まっているのだ(2007年10月7日)。
多くのドライバーがスパ-フランコルシャンと並んで世界一攻めがいのあるサーキットとして鈴鹿を挙げるが、富士が名乗り出たいま、グランプリは一カ国一開催の原則に照らして、惜しまれながら鈴鹿がひとまず身を引くこととなった。
鈴鹿は変化に富んだサーキットとして有名だが、きわめてユニークなのはレイアウトが“8の字”を描くこと。途中一箇所が立体交差となっているのがミソで、コース前半は右コーナーが多く、後半になると左コーナーが多い。こういうF1サーキットは鈴鹿以外になく、そこがチャレンジングでドライバーに好評だった理由のひとつであった。
鈴鹿の建設は1960年代で、その頃から基本レイアウトを変えずに存続しているサーキットは他にシルバーストン、モンツァなどごく少数。近年新設されるサーキットは安全上の理由から高速コーナーがほとんどなくなり、また、セーフティゾーンを広く取るためにマシンと観客の距離が遠くなるばかり。場所によってはドライバーの手の動きまでわかる鈴鹿のF1が去って行くのは、つくづく惜しまれる。
そしてイタリアGPで引退を表明したM・シューマッハーも鈴鹿ラストラン。しかもアロンソとのチャンピオン争いがからんでおり、それも見逃せないポイント。
昨年のシューマッハーは14番手からスタートして7位フィニッシュ。普通なら大健闘と言いたいところだが、なにしろ予選17番手スタートのライコネンが優勝、同じく16番手だったアロンソが3位に入っただけに彼らの影に隠れてしまった。しかし今年はじゅうぶんに巻き返しが期待でき、鈴鹿通算5回目の勝利も夢ではあるまい。シューマッハーの対抗はアロンソ、そしてライコネンと見る。アロンソ、ライコネンといえば彼らが履くミシュラン・タイヤが今季いっぱいでF1を撤退することが決まっており、ムッシュ・ビバンダムも鈴鹿ラストランとなる。
日本が注目するスーパーアグリF1チームはこれが最初で最後の鈴鹿となってしまったが、鈴木亜久里代表は「ボクは鈴鹿が好き。もしこれが今年の3戦目とかだったら、新車のSA06は造らなかったと思う」と、ホーム・グランプリに賭ける意欲は強い。
今季これまでいちばん近い敵はミッドランド(新名称:スパイカー)だったが、予選はともかく決勝ではこれを打ち破って欲しいと願うファンも多いはず。
鈴鹿はF1グランプリ史上唯一台風で予選をキャンセルされたサーキット(2004年)。ことしはそのようなことなく、秋晴れのすばらしい陽光の下での戦いとなることを望んでやまない。