ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
勝っただけでは進歩しない
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2005/04/04 00:00
日本が苦しみながら、どうしても欲しかった勝ち点3を手に入れた。
3月30日、日本は埼玉スタジアムでバーレーンと対戦し、相手のオウンゴールを得て1−0で退け、W杯アジア地区最終予選B組で2勝目をあげて2位に浮上した。
各チーム全6試合の前半戦を終えて日本は2勝1敗で勝ち点6。この日、平壌で北朝鮮を2−0で下し、2勝1分けで首位をキープしたイランとの勝ち点差は1。バーレーンは1勝1分け1敗で勝ち点4。白星がなく3敗の北朝鮮は4位となり、イラン、日本、バーレーンの3チームによる争いという構図が見えてきた。
「どんな形にせよ、勝ちで終わったことが重要」とMF中田英寿が言うように、わずか5日前、テヘランでイランに負けた日本にはこの1勝が必要だった。
ホームの試合をきっちり勝ち、その上でアウェーの試合でできるだけ勝ち点を稼ぐ。ジーコ監督が立てた予選突破の青写真も、ここで取りこぼせば早々に修正を迫られることになる。特に、日本の試合開始直前にイランが北朝鮮に勝ったため、勝ち点差を広げられるのは避けたい。
だがホームとはいえ、日本にとっては厳しい展開になった。
5日前に平壌で戦って来日したバーレーンは時差ボケも解消され、コンディションがいい。立ち上がりから、日本の攻めを研究しつくしたような執拗な守備をみせ、その一方で、カウンターからゴリゴリと日本陣内にねじ込むように攻め入って、日本を苦しめた。日本はボールキープはするものの、パスコースを消され、自分たちの攻めが作れない。
その日本を救ったのが後半26分の相手のオウンゴール。交替出場のFW玉田が倒されて得たフリーキックを、MF中村がファーポストに構えたDF中澤に合わせ、中澤から受けたDF宮本がヘディングで折り返すと、慌てた相手MFサルミーンがクリアすべきボールを自軍枠内へ蹴りこんだのだった。
幸運もあったかもしれない。
だがこのゴールは、それまで攻め続け、プレッシャーをかけ続けた日本選手の努力の結果だろう。ジーコ監督も「選手がゴールを意識してプレーしたおかげ。立派な1点」と話し、「プレスを効果的に相手にかけることで、ディフェンダーは自分の向きがわからなくなることがある」と説明した。
実際に、後半の日本のパフォーマンスはハーフタイムでの監督からの細かい部分での技術的な指示をきっかけに変貌していた。
後半立ち上がり早々からMF三都主が左サイドで積極的に攻撃を仕掛けると、相手が引いて前半ほどプレスをかけて来なくなったこともあって、日本は流れの中からチャンスを作れるようになっていた。
貴重な1点につながった中村のFKも、フワリとした浮き球のボール。前半までは、ニアを狙った速く低いボールばかりで、上背のある相手ディフェンスに跳ね返されてばかりだったことから、ハーフタイムに軌道修正していた。
もっとも、裏を返せば、前半のうちに選手たちの判断による修正はなされなかったということでもある。今後の激戦を勝ち抜くためにも、状況を見て臨機応変に対応できる柔軟さを求めたいところだ。
また、この試合では、中田英寿が従来の3−5−2に戻したシステムのボランチでプレーした。効果的なパスを前線へ送り、献身的なディフェンスで相手の攻撃の芽を摘むプレーを見せ、前回イラン戦の4−4−2システムでの攻撃的右MFでのプレーよりは、チームにフィットした印象を受けた。チームは、中田英寿のボランチという新たなオプションを手にしたと言っていいかもしれない。
ジーコ監督は、「勝ち点3を取って、自力でW杯本大会へ行ける状況が続いているのは喜ばしい。選手のプレーに満足している」と言った。そして、「このチームには負けに慣れて欲しくない」とも。
次の最終予選の戦いは6月3日のバーレーン、8日の北朝鮮とのアウェー2連戦だ。
中村は、「(イラン戦で)一対一で負けたことを頭に入れて、そういう部分で個人個人がもっとレベルアップすれば(チームは)もっと強くなる。僕個人ももっとがんばりたい」と、3ヶ月後に控えた闘いまでの心構えを口にした。
予選は勝ち点がものをいうだけに、勝てばノルマは達成されたことになる。ただ、それだけではチームに進歩は生まれない。しかも、今回のバーレーンのように日本はかなり研究されている。その状況に対応し、さらに勝ち星をあげて予選突破するためにも、この3試合で学んだことは、課題も含めて、是非とも有効に活用してもらいたい。それが予選突破への道を開くのだから。