佐藤琢磨・中嶋一貴 日本人ドライバーの戦いBACK NUMBER
走れない琢磨の胸中。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2008/06/18 00:00
「元気にやっていますが、レースに出られなくて残念。昨日、目の前を走られた時はキツかった。走りたいのに走れないのは拷問に近い。家の中でイライラしていました」
モナコGPは木曜日が試走。翌金曜日はホリデーで、土曜日に予選という変則スケジュール。その“中日”金曜日にモナコ在住の佐藤琢磨がパドックに現れ、日本人メディアとのグループ・インタビューに応じた。琢磨がメディアの前に姿を表わすのはスペインGP後初めて。
F1はきびしい世界で、スーパーアグリF1チームが消滅してしまった以上、琢磨とてただの人。居場所がない。今回の“囲み記者会見”は、ブリヂストン・タイヤが琢磨にパドックパスとモーターホームを提供して実現したものである。
「明日撤退の発表をするという連絡を亜久里さんからもらった時は、何も言葉が出ませんでした。その後、南仏のアルプスに行って雄大な自然に触れて休養しましたが、気持ちの整理がつくまでに時間がかかりました。レースに出られない実感が湧かなかったんですが、昨日、走行が始まってからようやくその実感が出てきましたね」
そう切り出した琢磨は、F1ドライバーを辞めるつもりはないこと、アメリカからいくつもレースのオファーがあったがF1にこだわりたいこと、テストドライバーの話が来た場合はあくまでもレギュラーのレースドライバーになることを条件に考えること……など今後のプランを語った後、「ファンには『頑張ります、待ってて下さい!』と言いたい」とメッセージを残して去った。
おそらく今後はホンダF1チーム復帰に向けて水面下の交渉が始まるのだろうが、琢磨は「この後ボクがF1のパドックに現れることがあったら、それは復帰が具体的になった時ですよ」とコメントしている。
さて、トルコからひとり日本人ドライバーとなった中嶋一貴だが、モナコは7位でフィニッシュし、今季3回目の入賞。日本人としては史上初のモナコ得点ドライバーとなった。
レースは、前半に一時激しい雨が降り、後半はドライという典型的な“荒れ”パターン。本来78周のレースもセーフティカー出動などでレギュレーションの2時間リミットが適用され、76周でチェッカーとなったが、そんな中で中嶋一貴は粘りの走りを見せた。
中嶋一貴の予選グリッドは14位。16位以下が足切りされるQ1はぎりぎり15位でクリアしたものの、Q2は14位で念願のQ3進出は果たせなかった。中嶋がモナコを走るのはこれが初めてではなく、昨年もGP2で参戦。ところが、内容がさんざんだっただけに「あまり得意なサーキットじゃない」と認め、特に低速セクションをうまくまとめるのが難しいと言い、予選でも低速コーナーのブレーキングに失敗している。
だが、決勝は雨。これをチャンスと見た一貴は1回ピットストップ作戦を敢行。浅溝のスタンダード・ウェット・タイヤを履いてスタートし、上位の混乱をよそに4周目にトップ10入り。52周目に最初で最後のピットインでドライ・タイヤに履き替え、スーティル、ライコネンらの脱落も手伝って7位フィニッシュを果たした。
「雨の路面には50回くらいヒヤッとしましたが、レースは楽しかった。得意なサーキットになったとは思いませんが、嫌いではなくなったかな(笑)」
父・中嶋悟も果たせなかったモナコでのポイント・ゲットは、中嶋一貴を一回り大きくしたように見えた。
モナコの2週間後のカナダもモナコと同じく大荒れのレースとなったが、ここでも中嶋一貴は予選トップ10入りを果たせず12位からのスタート。Q3進出まであとわずか100分の4秒だっただけに「速さは見せられたとは思いますが、100分の4秒くらいなら行けたかもしれない。手応えがあっただけに口惜しい」と吐露。とはいえ決勝に向けては「荒れるでしょうから、気持ちを切り換えて走りたい」と、連続入賞を目指す。
案の定、決勝は序盤にセーフティカーが入り、上位9台のマシンがピットインする展開。
この時、コース上に残った中嶋一貴は29周目から32周目にかけて2位を走行。ピットストップの後いったん10位までポジションを下げるが、残り25周時点で8位に浮上。ところがここでミスが出る。
「ヘアピンで前にいたバトンが急に減速してきたので接触してしまいました」
フロント・ウイングにダメージを負った中嶋は即座にピットイン。ところがピットロードで脱落したウイングにタイヤが乗ってしまい、右〜左と折れるピットロード入り口を曲がり切れず、壁にヒット。その場でリタイアとなった。
「もったいなかったですね。ピットインしてもあのまま走り切れていたらポイントがあったかもしれないですから。ウ〜ン……運もなかったかも」
カナダは中嶋一貴に多くの課題を残した。トップ10にあと一息の予選。序盤、ペースの遅いバリチェロを攻めあぐねて抜けなかったこと。そしてバトンへの追突……前半7戦で学んだことをどう中盤戦に活かすか。2週間後のフランスGPから、グランプリ・サーカスはヨーロッパ・ラウンドに入る。