イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER
So What? イチローが首位打者を取るようなことがあったら……。
text by
木本大志Taishi Kimoto
photograph byKoji Asakura
posted2001/06/15 00:00
「イチローはもうすぐ打てなくなる」。
そう挑発気味に吠えるのは、ロブ・ディブル(ESPNラジオパーソナリティ/ESPNベースボール・トゥナイト解説者/元シンシナティ・レッズ)。
以下ロブの“イチローは今がピークである”根拠をまとめてみた。
「メジャーは162試合も戦わなきゃいけない。イチローは日本で135試合しかプレーしたことがない。加えてマリナーズはメジャーの中でも最も過酷な遠征日程のチーム(移動距離をベース)。彼はシーズン後半、完全にその疲れを見せる」。
確かにこの点においては議論のしようがない。疲れるかもしれないし、疲れないかもしれない。シンプルな議論だが、答えはシーズンが終わってみて初めてわかることだ。
つい突っ込みたくなるのが次の根拠。
「彼にかかる首位打者への期待が彼を潰すだろう。さらに、アメリカン・リーグのピッチャーはまだイチローを研究不足だ。イチローの弱点を把握しているとは思えない。スカウトらによって、イチローの弱点はすぐにでも暴かれるだろう。イチロー対策さえしっかりできれば、もう打たれることはない」。
一見まともな根拠にも見えるが、アラだらけ。
まず、首位打者へのプレッシャーについて。日本での7年間、イチローは常にそのプレッシャーと戦ってきた。1度や2度の話ではない。首位打者獲得へのプレッシャーをどう克服するか、それを世界中の誰よりも知っているのは、イチローかもしれない。
イチローの弱点が暴かれれば、イチローは打てなくなる?
イチローもまた相手を研究しているということをロブは考えないのであろうか?
対戦の回数を重ねるごとにイチローの頭の中には相手投手のDATAが蓄積されていく。アメリカン・リーグのピッチャーがイチロー対策を立て、それを実行したとしても、それもまたイチローにとってはDATAの一つとして認識されるだけだろう。
そもそも初対戦は圧倒的に投手有利なのである。多くのメディアは、「イチローは最初の数ヶ月苦労するかもしれない。しかし徐々にメジャーの投手にも馴れ、適応していくだろう」。そうシーズン当初予想した。まともな論理。ロブの、「イチローを研究さえすれば、シーズン後半は打てなくなる」、という根拠にもまた疑問を投げかけざるをえない。むしろ逆だと。
何とか反論の場がないものか? そう考えていたらルー・ピネラが“スカッ”とさせてくれた。
ロブがトークショーの中で、ルー・ピネラにこう言ったという。「もしイチローが首位打者を取るようなことがあったら、俺はニューヨークのタイムズ・スクエアを裸で走ってやるよ」。
ルー・ピネラはこう返したという。
「今から日焼け対策を考えておいたほうがいい」