カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:草津「温泉でトロトロ気分に」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2004/12/28 00:00
ロッテルダムから帰国した翌日、奇しくも草津で
マイナス8度を体験した。1年の終わりに相応しく
最高のお湯につかり、いま、ぼくはとても良い気分だ。
前回、ロッテルダム編でキーワードになっていた「マイナス8」を、僕は偶然にも、帰国後、直ぐに向かった草津で体感した。
宿の若女将は「草津は寒いでしょ」と、ねぎらいの言葉で迎えてくれたが、オランダ帰りの僕にはなんてことはない気候だった。実際、草津に雪はなかっ
た。荻原兄弟が子供時代、夢中にスキーを楽しんだ天狗山スキー場も、雪不足のために枯れた芝が剥き出しになっていた。期待していた一面の銀世界は、白根山の山頂付近にある草津国際スキー場まで行かなければ、拝めないとのことだった。
僕は好奇心に胸をときめかせながら、山頂駅を目指した。ゴンドラのロープーウェイに乗り込み、しばらくすると樹氷に覆われた針葉樹が、目に飛び込んできた。ゲレンデを見やれば、威勢の良いスキーヤーたちが、鮮やかなシュプールを描いていた。一帯は、期待通りの銀世界。山頂駅に到着し、そこに足を一歩踏み入れれば、コリコリとした雪の感触が、足の裏を心地よく刺激した。
レストハウスの脇には、昔ながらの寒暖計が垂れ下がっていた。僕は一瞬目を疑った。マイナス8。マジかよと驚いた僕は、眼鏡をリセットしてもう一度、目を凝らした。正確に言えばマイナス7.8。
このコラムを担当する音楽好き(ブッダバー好き??)女性編集者Kに、僕が「やっぱり僕って、引きが強い男なんだよねー」と、その事実を自慢げに伝えれば、彼女は案の定、疑いの声を携帯越しに向けてきた。「ホントですかそれ」。
嘘ついてどうする。山頂の気温は正真正銘マイナス8だったのだ。彼女が、だからどうしたって突っ込みたかったのか、それとも僕と一緒になって驚き、感激してくれたのか、そこまでは確認できなかったが、ジコマンに浸る僕にとって、そんなことはそう重要な問題ではない。
そして、銀世界に吹き荒む寒風に雪が舞うと、視界は一瞬遮られた。まさに「スノウ・ブラインド」が僕を襲った。ロッテルダムと草津の間が、赤い線で結ばれているようだった。それを引っ張っているのが僕だとすれば、僕は不思議な力の持ち主だと言うことになる。草津行きが決定した途端、ザスパ草津が横浜マリノスにまさかの勝利を収めてしまった事実もあるわけだし……。
2004年も余すところあと数日。振り返れば、今年も馬鹿馬鹿しいジコマンに明け暮れた1年だった。草津のお湯も最高だったし(マジです!!)、いま、僕はとても良い気分でいる。一年の垢を落とすどころか、うっかりそれ以上のモノまで落とてしまいやしないかかと心配になるほど、トロトロ気分に浸っている。
2005年はどんな年になるだろうか。W杯予選? それはそれで重要な問題になるが、一方に目を向ければ「クラブ」という言葉に、僕は興味を覚えている。とかく語られやすい話題は、ピッチの上の集団、つまり「チーム」だ。だが、2004年はそれを含む「集団」、サッカーで言うところの「クラブ」に、前時代的な蛮行が目立った。あれだけの騒ぎを引き起こした末に生まれた「クラブ名」が「楽天イーグルス」じゃあ、世の中は少しも変わらない。僕の知らぬ間に誕生していた「福岡ソフトバンクホークス」にも愕然とする。
「ザスパ草津」とのギャップはとても大きく感じるが、だからといってザスパ草津が完璧というわけでもない。ホームグラウンドが前橋にあっては、観戦に出かけても温泉には入れないわけだ。これは大問題である。
そういう意味では、アルビレックス新潟に、僕は好印象を抱く。アルペン競技の新聞記事に、皆川健太郎選手の所属先がカッコ付けで、アルビレックス新潟とでているのには感激だ。これぞスポーツのあるべき姿である。「クラブ」。それこそが難解なスポーツ文化を究明するキーワードだと僕は思う。