レアル・マドリーの真実BACK NUMBER
スタイルの見えない場当たり集団。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byGetty Images/AFLO
posted2004/12/10 00:00
ロナウドが汗をふき、ラウールが結婚指輪にキスをし、フィーゴが拳を振り下ろし、ジダンが控えめに拍手をし、ロベルト・カルロスが子供のような笑顔で抱きつき、ベッカムがグティの背中に飛び乗る――。レアル・マドリーにゴールが、美しいサッカーが、そして歓喜が戻ってきた! ローマに快勝したチームはチャンピオンズリーグ16強入りを決め、3冠(国内リーグ、チャンピオンズリーグ、国王杯)制覇の夢をつないだ。
が、本当にこれでいいのだろうか?
このレポートはローマ対レアル・マドリー戦が行われる9時間前に書かれている。よって“レアル・マドリー快勝(大勝の可能性も大いにある)”は私の空想だが、外れることはあるまい。
観衆のいないオリンピックスタジアム。トッティ、カッサーノ、モンテーロ、パヌーチらレギュラー8人を欠く“ローマB”に対して、ロナウド、ジダン、ラウール、ベッカム、フィーゴら全ての銀河の戦士がそろい踏みするレアル・マドリー。勝敗があらかじめ決まった、今季チャンピオンズリーグで最も味気ない一戦になるはずだ。
トッティらをベンチ入りさせず、無味乾燥な試合を演出したローマ監督デル・ネリの判断をここでは問わない。私が釘を刺したいのは、彼のアシストで快勝した(はずの)レアル・マドリーだ。
今のレアル・マドリーほどイレギュラーなチームはない。
アルバセーテに6-1と大勝した後、バルセロナに3-0と完敗。レバクーゼン戦で1-1の後、再びレバンテに5-0と大勝。先週末のビジャレアル戦では一転、防戦一方で0-0。この間のメディアの論評も、「王者の復活!」「時代の終わり」「転落」「スーパーゴール!」「無気力」と銀河系軍団の激しい好不調の波に翻弄され続けた。ローマに大勝すれば再び景気のいいタイトルが踊るに違いない。
が、これで本当にいいのか?
イレギュラーなレアル・マドリーは、意外にも結果を大変予測しやすいチームでもある。大勝には、1.格下チームが相手 2.オープンなサッカーでの戦い 3.スーパーゴールがきっかけ、苦戦には、1.強豪との対決 2.プレッシングサッカーを挑まれる 3.アウェー戦、という条件が付く。勇敢に撃ち合いを挑んでくる相手には滅法強いが、最終ラインを上げコンパクトスペースを造られて中盤でプレスをかけられると、とたんに個人技頼りの攻撃は影を潜め、守備の穴が露呈する。鋭角的なドリブル、華麗な壁パス、不可能なアングルからのシュートなどの高い個人技を持つチームが、とてつもなく遅く、予測可能で、アナーキーな集団に簡単に姿を変えてしまうのだ。
今週末に行われる、ドゥノェ前監督の頃からからコンパクトなサッカーするレアル・ソシエダとの一戦は予断を許さない、と私は見る。
昨日(7日)の対シャクタール戦で主力を温存した首位バルセロナに対し、ローマ戦でフルメンバーのレアル・マドリーには疲労蓄積の不安もある。チャンピオンズリーグ勝ち抜きの余韻に浸っている場合ではないのだ。
もう少し現在のレアル・マドリーの問題点を掘り下げてみたい。
先週末のビジャレアル戦では、ガルシア・レモン監督の能力にも疑問を持った。
この試合ではグティとフィーゴ(警告累積)、ジダン(負傷)に加え、ラウールとロベルト・カルロスがベンチを温め、通常のレギュラーから一挙に5人が入れ替わった。私は、選手を交代で休ませるローテーション制には大賛成だし、ソラリ、パボン、ラウール・ブラボら控え組の力がレギュラー陣に比べ大幅に落ちるとは思わないが、チームの半数を入れ替えた英断には驚かされた。明らかに力が落ちるアルバセーテやレバンテをホームに迎えてもレギュラーを休ませなかったのに(大勢が決まってからラウール、フィーゴを交代したが)、UEFAカップを争う強豪ビジャレアル相手のアウェー戦で、いきなりこんな劇的な采配をするとは。
2、3人ずつ休養を与え、徐々に控え組をフィットさせて行くのではなく、プランのない場当たり的な采配。ビジャレアルと引き分けたせいで首位バルセロナとの差は勝ち点9に広がった。「国内リーグを軽視した」と批判されても仕方がない、ガルシア・レモン監督の勇敢すぎる判断だった。
ビジャレアル戦でも見られたチーム全体に蔓延する覇気のなさ、無気力さは、選手間の不協和音が原因ではないか。
「誰を責めるでもないが、フォワードにはボールが必要だ」――バルセロナ戦完敗の後、こう言い放ったロナウド。「カシージャスがボールを要求したからだ」――同じ試合でカシージャスとボールを譲り合い、先制点を与えたロベルト・カルロスは、こう言い訳した。
これはカマーチョ辞任前後のゴタゴタから続いていることだが、今季のレアル・マドリーには“一丸となって戦う”という、強い意志が見えない。大勝したときのみ、チームが一つになる印象を与えるのだ。バルセロナのエトーやプジョールがチームメイトに責任を転嫁するような発言をするだろうか?
ロナウドとロベルト・カルロスの発言が真実かどうかはどうでもいい。メディアに対し同僚への不満を漏らすこと自体が、モラルの低下を感じさせる。
個人技の寄せ集めで、チームに戦術的な筋が通っていないことは、これまで何度も指摘してきた。だが、集団を束ねる攻守スタイルの不在は、選手の心の分裂をももたらしているような気がしてならない。
とはいえ、場当たり的で一貫性に欠けると言えば、現フロントに並ぶものはいないだろう。
ローマ戦を直前に控えた今、“トッティとカッサーノ、クリスマスにもレアル・マドリー入りか?”という驚くべきニュースが飛び込んできた。一人頭25万ユーロでお得な買い物だそうだ。ガセネタだと思うが、ビエイラの代わりにオーウェンを補強した“銀河的発想”のフロントなら、有り得ない話とは断定できない。
レアル・マドリーは“ローマB”には勝つだろう。
いやローマだけでなく、重圧のかからない舞台で格下相手の試合なら、ロナウドはゴールを量産し、フィーゴ、ジダンが素晴らしい個人技を披露し、ラウールとロベルト・カルロスが抱き合い、ベッカムは歓喜を爆発させ続けるに違いない。
しかし、レアル・マドリーの真の強さはまるで見えない。