プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「捕手なのに打てる!」のではない。
“バットマン”阿部慎之助を巡る物語。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/11/18 10:30
日本シリーズ第6戦、優勝が決まった瞬間にマウンドに駆け出すキャプテンの阿部。重責から解放され、最高の笑顔がはじけた
原監督も「4番を打てる実力」と打撃に太鼓判を押す。
捕手・阿部の転機は、原辰徳監督が2度目の監督に就任した2005年のオフだった。
「あのバッティングをもっと活用したい」
その年の8月に阿部は右肩痛から一塁守備を経験。そこに目をつけた新指揮官の頭には、阿部の一塁コンバート案があった。
捕手をやりながら、あれだけ打てることが阿部の魅力だといわれることが多かった。だが、原監督の考えは違った。
「あの打撃をもっと生かすには負担の少ない一塁の方がいい。守備の負担を軽減したら慎之助は十分に4番を打てる実力の持ち主だ」
だが、その方針に首を横に振ったのは、実は阿部本人だった。
「もう一度、キャッチャーで勝負させて下さい」
そう監督に直訴して、一塁へのコンバート案は幻に終わった。そしてそれから4年。今年、小笠原道大が負傷欠場というチームのピンチに、再び監督は阿部に打診した。
「一塁、いけるか?」
今度は阿部は大きく首を縦に振った。
8月15日の阪神戦。2005年以来の一塁守備を無難にこなした阿部は、4回には右翼席にライナーで本塁打を打ち込んだ。捕手にしては打つのではない。一人の打者としてその能力の高さを改めて示した。守備の負担を軽くすれば、もっともっと阿部のバットは火を噴くのではないか。改めてそう実感させられた試合だった。
若手捕手が育ったときに、阿部は打撃に専念するか。
今年のドラフト。巨人は2位で高専出身としては初のドラフト選手となった鬼屋敷正人(近大高専)と、4位で社会人NO.1の呼び声高い市川友也(鷺宮製作所)の2人の捕手を獲得した。
まだまだ捕手・阿部の存在感を追い越せるだけの若手は育っていないのがチームの実情だ。ただ、阿部の場合は捕手として負担が大きくなったときには、バットだけでチームの軸となれる力も存在感も十分なのは分かっている。
いずれそのときのために――。
今年の巨人のドラフトは、そんな思いが感じられる指名だった。