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空洞化するスタジアム。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/11/25 00:00

空洞化するスタジアム。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 かつて’60年代に、「ペルケー、ペルケー、ラ・ドメニア……(なぜ、なぜなの? 日曜日になると……)と始まる歌が一世を風靡した。愛する男(ひと)は、日曜日になるとスタジアムへ行ってしまう。家に一人残された女性がそれを嘆くさまを歌ったものだ。この「パルティータ・ディ・パッローネ(サッカーの試合)」と題された歌は、当時の女性に圧倒的な人気を得た。歌詞の内容から、イタリア人男性は毎週日曜日、サッカーの試合を観るためにスタジアムへ出向くのが習慣だったことがわかる。

 時を経た今、先の歌詞とは相反する現象が起きている。観衆の激減だ。統計によると、「セリエA最高の時代」と言われる’90年代(例えば’97−’98年)は年間で観衆954万人を記録したが、それに比べ、昨シーズンは168万人も少ない数字しか残せないなど、スタジアムの空洞化は深刻になっている。

 では、なぜサッカー好きのイタリア人がスタジアムへ足を運ばなくなったのか? 原因としては、ペイTVの普及、チケットの大幅な値上げ、スタジアムの設備の欠陥などが挙げられる。さらには、放映権との絡みによる試合の時間帯変更が拍車をかけた。

 開幕から3カ月が経過した現在、観衆は平均で8.7%の減少。優勝候補といわれるビッグクラブ(ユベントス、ミラン、インテル、ローマ)でさえ、第7節を終了した時点で昨シーズンよりも平均5.8%ダウンと下降線を辿っている。

 先日行われた好カード、ユベントス−ローマ戦でも、スタジアムの半分が空席だった。この「スタジアム離れ」に対し、連盟の幹部は「思ったよりも少なかった」と語るにとどまったが、内心は決して穏やかではなかったはずだ。

 経営が苦しくなったクラブが収入源であるスタジアムのチケットを値上げしたことは、かえって逆効果となった。逆にイタリア人たちは、財布の紐をきつくしてしまった。平均で22.8%もの値上げが、クラブの首を絞めることにつながったのだった。

 また「セリエAを見るのは日曜日」というのが習慣として染みついているイタリア人にとって、平日のゲームはサッカー観戦への興味を半減させる。仮に「恒例の日曜日」にはそこそこの観衆を維持できたとしても、日曜日以外に行われる試合の存在が、トータルの数字で足を引っ張る。連盟は、スタジアム活性化のための名案を打ち出すことができるのだろうか?

 ペイTVは、サポーターをできるだけ家に引き止める策として、美人でグラマーな司会者を起用するなど、独創的な番組作りを徹底した。これが見事にイタリア人男性の心をつかむこととなり、視聴率を上げることに成功した。さらにはハイテクのお陰で、スタジアムの臨場感が自宅のTVで味わえるようになったことも、「スタジアム離れ」につながったと言えるだろう。ひょっとすると近い将来には、「なぜ日曜日に家にいるの?」と、スタジアムに行かない男性を綴った歌が世に出るかもしれない。

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