ベースボール・ダンディBACK NUMBER
イチローと真っ向勝負した林昌勇。
防御率0.00の、誇り高き野球。
text by
田端到Itaru Tabata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/06/10 12:20
プロならではの勝負の気合いや呼吸を見せてほしい。
しかし、それでも言いたい。プロの世界には、勝負の気合いとか、勝負の呼吸というものがあるはずだ。相手の剣がこう来たら、こちらの剣はこう応える。礼儀、美学と言い換えてもいい。
同点の9回に、相手が無傷の守護神を送り出してきたのに、こちらは無傷の守護神を温存して、副将がお相手しますなどとやったら、結末は見えている。勝負の神様が、プロ野球の神様が、そんな気構えは許さない。
案の定というべきか、試合は9回裏、建山が打ち込まれて、あっさりとヤクルトのサヨナラ勝ちに終わった。
緊迫した好ゲームだっただけに、最後はもったいなさの残る終わり方だった。両ストッパーの投げ合いは、クライマックスシリーズまで待つことにしよう。
WBCの決勝でベンチを無視してイチローを敬遠しなかった男。
それにしても、林昌勇の今季の無敵っぷりは何だろう。安定感なんて言葉じゃしっくりこない。無敵だ。見ていて、まるで打たれる気がしない。
思い出して欲しい場面がある。3月24日(日本時間)、WBCの決勝戦、日本対韓国の一戦。あの10回表のイチローの決勝タイムリーが飛び出したとき、韓国のマウンドにいたのが林昌勇だった。
2死二、三塁でなぜイチローを敬遠しなかったのか。韓国ベンチの敬遠の指示が伝わらなかったのか、それとも林昌勇のサイン無視だったのかと、ずいぶん議論になった。
暴論を承知で書く。あの場面でベンチの指示を無視してイチローと勝負したからこそ、林昌勇は今季、自責点ゼロのピッチングを続ける高みに登ったのだ。WBC決勝という最高の舞台で、世界最高の安打製造機と対峙したときに、誇り高き野球を貫いたからこそ、蛇直球はさらなる腕の振りとスピードを得て160kmを記録するまでに進化したのだ。
私はそう思っている。