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“石田くん”の普通な魅力。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byToshiya Kondo

posted2006/06/07 00:00

“石田くん”の普通な魅力。<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

 『爽やかさ』。

 格闘技界は、この言葉とはほとんど無縁である。そりゃそうだ。大のオトナが汗をたっぷりとかきながら殴り合ったり、組んずほぐれつしているのだから仕方がない。試合内容もかなり殺伐としているし、どうしったて爽やかさとは掛け離れてしまうわけだ。

 『爽やかさ』と類似性のある言葉を強いて探してみれば『イケメン』ということになるだろうか。イケメンならばいる。ご存知の魔裟斗をはじめKIDや須藤元気、それに所英男……と枚挙にいとまはなく、今の格闘家はそれなりにグッドルッキンではないと成り立たないのか!?といったありさまだ(いや、もちろん実力主義の世界ですよ。あくまでも最近の傾向ですからね)。

 とはいえ、魔裟斗、KID、元気はクセがあるので爽やかとは言いづらいし、所はその天然っぷりが爽やかだと思うけど、どちらかといえば『清貧』に近いような……。

 どうしてこんな話をしているのかといえば、ついに『コイツはなんて爽やかなんだろう!』と膝を叩いてしまいそうな稀有なファイターが表舞台に出てきたからである。

 その名は石田光洋。修斗環太平洋ウェルター王者であり、川尻達也と同じT−BLOODに所属する選手である。石田は、修斗でタイトルを取っていることから分かるようにかなりの実力派。アマチュアレスリングをバックボーンとしグラップルとパウンドの技術が非常に高いファイターなのだ。

 しかも、先日行なわれた『PRIDE武士道』において、あの五味隆典を破ったマーカス・アウエリオから判定勝利を奪うアップセットを演じてしまったのだから会場に訪れていたファンや関係者は驚いた。群雄割拠のPRIDEライト級にまたひとりスターが誕生したのだ。

 石田は、“小ノゲイラ”と呼ばれるアウエリオのグラップルテクニックに序盤手を焼くも、中盤からは得意のタックルで幾度となく“投げ”を制しトップポジションになると、下から執拗に仕掛けてくるアウエリオにひるむことなくパウンドで応戦。レスリング時代培ったスタミナを武器に休むことなく殴りつづけ、試合終了のゴングが鳴ったあとリング上に倒れていたのは、アウエリオではなく酸欠状態でヘトヘトになった石田だったという結末である。まさに、気持ちで勝った、といえる勝利だった。

 では、この石田の『爽やかさ』についてであるが、まずはルックスである。クリッとした瞳の端正な顔立ちに髪形はスッキリとした真っ黒な短髪。そして試合中に見せる必死の形相は、なぜか暑苦しくなく『一生懸命』という言葉がばっちりマッチする。会見中や普段の表情は、ふてぶてしさがまるでなく笑顔が柔らかい。

 次は、態度である。リングインすると四方に礼をする礼儀正しさ。そしてマイクアピールや会見での丁寧で襟を正した言葉使い。例えば、要約すると「はじめまして。勝つことができ本当にうれしく思います。皆さんの声援なしでは今回の結果はありませんでした。石田光洋をよろしくお願いします」といったあんばいだ。うーん、じつにイイ感じの腰の低さ具合。面白味はないが、実直な感じがよく出ていて好感を持てる。また、すこしカン高く優しい声もポイントが高い。

 ほかの要因としては、関節技でギリギリまで追い詰められようともタップすることなく脱出し形勢を逆転する『あきらめない心』であったり、自分の試合が終わってすぐ同僚の川尻のセコンドについて一番大きな声を張り上げている仲間思いの部分であったりと爽やかな要素がいくらでもあるのだ。

 ともすれば武骨なイメージが先行する格闘家だが、石田ほど白いポロシャツが似合う男はいないだろう。もし教師だったら、女子高生にワーキャー言われて顔を赤らめてしまいそうなウブさえも感じてしまう。そう、正統派なのである。いわゆるベビーフェイス。きっと、そんなクリーンなイメージが日本人の感性と合致して観る者を安心させるのだろう。

 こうやって振りかえると普通のこととも思えるが、個性派が多い格闘家のなかにあって、“普通”は輝きをみせるこれもまた特異な個性なのだ。

 石田の台頭により、より面白味を増したPRIDEライト級。五味や川尻とのマッチメイクも含め、石田の今後の動向にはぜひ刮目してもらいたい。

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