セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
今年も熱かった移籍市場。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2004/09/10 00:00
セリエAの移籍市場解禁期間が、8月31日をもって終了した。スリラー映画と同様、移籍期間のクライマックスはなんといっても最終日にある。過去にも、怪童・ロナウド(レアル・マドリー)、世界最高のファンタジスタ、ジダン(同)の電撃移籍が決まったことからもわかるように、大物の移籍が確定するのは、たいていが8月下旬であるゆえ、記者やサポーターにとっては、時計の針が最終日の午後7時を回るまでは気が抜けない。
そして今年も、ユベントスが最終日に凄んだ。インテルのイタリア代表DFカンナバロとスウェーデン代表の若きFWイブラヒモビッチを獲得したニュースが、イタリア中を驚かせた。
「名将カペッロのコマが8月31日にして整った」と翌日のイタリア各紙は、ユベントスのフロントによる圧巻ビジネスを称賛した。とりわけイブラヒモビッチの移籍に関しては、先の欧州選手権において、10万分の1の偶然に匹敵する技ありの「ヒールシュート」でイタリア代表を同大会から敗退させるきっかけを作ったストライカーだけに、アンチ・ユベントス派は苦笑いしたにちがいない。
アヤックス(オランダ)が、そしてスウェーデンが誇る背番号「10」を1500万ユーロ(約20億2000万円)という破格の移籍金をはたいてものにしたビッグビジネス。スター選手が去る傾向にある近年のセリエAだけに、この度のイブラヒモビッチの来襲は、明るい話題となった。
ユベントスがFWディバイオを放出した時点から、遅かれ早かれ、新しいストライカーがカペッロ監督のコマとして加わることは想像できた。実際、ストライカー探しに執着するユベントスに対し、記者の関心は日を追って高まり、FWムトゥ(チェルシー)やFWジラルディーノ(パルマ)らが、この夏のスポーツ紙の一面を「ユベントス入り濃厚」の見出しで飾ってきた。
FWは、他のポジションに比べて選手の絶対数が少なく、「優秀な」という形容詞がつくストライカーとなると、さらに希少価値になる。現代サッカーの嗜好は「攻撃」。世界中のクラブが常にストライカーを探し求めていることから、優れたFWを獲得できる成功率は自ずと低くなり、決して一筋縄ではいかない。
このように世界中が血眼になるFW獲得競争は、セリエAにおいては3つのタイプに区分される。ユベントスのように実績と金銭面が充実し、クラブの「印籠」が絶大な効果を発揮するケース。ペルージャ、レッチェに代表される、腕利きスカウトマンが未開地から金の卵を発掘するケース。今季のフィオレンティーナが、イブラヒモビッチがユベントスに加わった関係で押し出されたFWミッコリと契約を交わしたパターンのように、いわゆる強豪からの「おこぼれ」をもらうケース。したがって、ユベントスのような金持ちが存在する限り、フィオレンティーナのような抜け目のないクラブがいるのは当然のことと言えよう。もちろん、「おこぼれタイプ」でさえも経済的に潤っていなければ獲得できないのだから、フィオレンティーナの行為を非難するつもりは、まったくない。
カペッロ監督に限らず、他の監督も戦力のコマを一通り揃えた。今シーズンは、20チームがセリエAという「戦闘街道」をエンジン全開でばく進する。