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セレブな中間管理職の受難は続く。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/09/13 00:00

セレブな中間管理職の受難は続く。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 プレミアシップ開幕から約1ヶ月。巷では、監督の人事異動を巡る騒動が話題を集めている。昨季はチェルシーで窓際族同然の扱いを受けていたクラウディオ・ラニエリの去就が注目されていたが、今季は既に2人の監督が解任されている。悲劇の主人公には当分事欠きそうにない。

 先陣を切ったのはサウサンプトンのポール・スターロックだ。彼は今年3月に就任したばかりだが、開幕からたった2試合(1勝1敗)でクビとなっている。前任のカリスマ監督、ゴードン・ストラカン(健康上の理由で辞任)に比べて存在感の薄さは否めなかったが、あまりにも儚い監督生命だった。

 その翌週の8月30日には、ニューカッスルの名将、ボビー・ロブソンが犠牲者となった。開幕前に「来季の契約更新はない」と最後通告を受けていたとはいえ、ロブソンと言えばイングランド代表やバルセロナなどで指揮を取った経験を持ち、国外からも広く尊敬を集める人物である。しかも解任の数日前には、クラブのシェパード会長自らが、「ロブソンに対しては、『はい、さようなら』というわけにはいかない」と発言していただけに、仁義を欠いた経営陣にはイングランド中が唖然としてしまった。ニューカッスルは後任としてブラックバーンからグレイム・スーネス監督を引き抜き、再び世間を驚かせている。

 衝撃の大きさでは、ラグビーW杯でイングランド代表を優勝に導いたクライブ・ウッドワードのサッカー転向説も引けを取らない。ウッドワードは大のサッカー・ファンで、W杯優勝直後から「サッカーのイングランド代表監督に興味がある」と言っていたが、なんと本当にラグビーの代表監督を辞任。これを受けて、ラグビー好きで知られるサウサンプトンの会長が、ウッドワードの監督起用を検討し始めたというのだから穏やかではない。いくらクラブチームとはいえ、他のスポーツ界から監督を迎えることなど前代未聞。スターロックの早期解任があっただけに、この問題はさらに物議を醸してしまった。

 だがサッカー界には、ごく少数派ではあるが「転向可能」と見る人物もいる。その代表格がチェルシーの新監督ジョゼ・モウリーニョで、「プロ選手としてサッカーを経験していないことがプラスに働く場合もある」と援護射撃をしている。もっとも援護射撃を行った背景には、モウリーニョがもともとは体育教師で、スポルティング・リスボン時代にロブソン監督の通訳を務めたことをきっかけにサッカー界に関わりだしたという経緯も、少なからず影響していると見るべきだろう。

 イングランド代表監督のスベン・ゴラン・エリクソンは、ウッドワードの一件に関して「ならば私はラグビーを始めよう」と冗談交じりにコメントしたが、彼の周辺もかなり騒々しい。協会に務めていた女性スタッフとのスキャンダルではかろうじて一命を取り留めたが、いまや協会内部は敵だらけだと言われており、W杯予選の出来如何では真剣に転職を考えざるを得ない可能性もある。

 クラブチームに話しを戻せば、今季からリバプールの指揮をとるラファエル・ベニテスやトッテナムのジャック・サンティニの両外国人監督も、共に古豪再建という難題を抱えているだけに油断はできない。昨季から低迷の続くマンチェスター・シティのケビン・キーガン監督、ウェイン・ルーニーを失ったエバートンのデイビッド・モイーズ監督らの頭上にも暗雲は立ち込め続けている。

 選手人事や予算配分の決定権があるわけでもないのに、成績不振の責任を真っ先に取らされる監督とは、まさにサッカー界における中間管理職だといえるだろう。アレックス・ファーガソン(マンチェスター・U)やアーセン・ベンゲル(アーセナル)のように、経営陣から永久就職を請われるような凄腕は例外中の例外で、大半の監督は我々サラリーマンと何ら変わらぬ苦しみを味わっているのである。

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