プロ野球亭日乗BACK NUMBER
宮本慎也が若手に伝えたかったこと。
果敢なヘッドスライディングの意味。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySPORTS NIPPON
posted2009/10/09 11:30
北京五輪ではキャプテンとしてチームを牽引した宮本。過去3年間のシーズン打率も3割を超えている39歳の鉄人だ
チームに活を入れるためのヘッドスライディングだった。
野村克也監督(現楽天監督)の下で、かつては優勝戦線の常連だったヤクルトが、Bクラスに低迷するようになって久しい。今のチームで、その時代を知る選手は宮本ぐらいしかいなくなった。
今季は久々に開幕から白星を重ねて初めてのクライマックス・シリーズ出場へのチャンスを得た。ところが夏場過ぎて成績が急降下。阪神、広島とのAクラス争いが激しさを見せ始めた直後に、宮本がこんなことを話していた。
「0-2とか1-3とか真っ直ぐ一本に絞って待ってもいい場面で注文どおりに真っ直ぐがきてもバットが出ない選手がいる。固くなっているんです。こういう経験をもっとしないと、チームは強くならないですね」
優勝争いの重圧、ここ一番で負けてはいけない試合を勝つ力……修羅場をくぐり抜けていくために必要なプラスアルファをどういう風に若い選手に伝えていくか。それがベテラン選手にとっての務めでもあると思っている。
だから宮本は自然と一塁にヘッドスライディングで飛び込んでいってしまったのかもしれない。
激痛をこらえてプレーを続ける宮本が伝えたかったもの。
包帯を巻いた右手ではボールはまともには握れない。打撃では詰まったときに激痛が走る。
「でも、痛いとか投げられないとか見せたらいかんでしょう。内角のボールにドン詰まって“うぉ~!”っていうことがあったけど、“顔に出したらいかん。顔に出したらいかん”と思って、一塁まで走りました」
イチローに怒られないためにも、チームの若い選手に勝つことの難しさを伝えるためにも―― 一塁にヘッドスライディングすることが、決してマイナスにはならないことを、身をもって証明しなければならない。