MLB Column from USABACK NUMBER

バリー・ジートの「アホウドリ」契約。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2007/01/09 00:00

バリー・ジートの「アホウドリ」契約。<Number Web> photograph by AFLO

 1月3日、投手としては史上最高額の契約(期間7年・総額1億2600万ドル)でジャイアンツ移籍が決まった、バリー・ジートの入団発表が行われた。ジートについては、もともと「今オフ、FAとなった選手の中で実力最高」との呼び声が高かったが、それにしても、1年平均1800万ドルの年俸額は「高すぎる」し、7年の契約期間も「長すぎる」と見る向きがほとんどである。メジャーでは、将来に禍根を残しかねない「大馬鹿」契約は、一般に「アホウドリ」契約と呼ばれるが(「albatross(アホウドリ)」という単語には、「成功や前進を妨げる重荷」という意味がある)、今回のジートの契約はその典型と言ってよいだろう。

 では、なぜ今回の史上最高額契約の評判が悪いかだが、その理由は、データで見る限り、ジートは最高クラスの投手とは言い難い上に、その力がはっきりと坂を下り続けているからである。以下、ジートの「力」がどれだけ史上最高額契約にふさわしくないか、「DIPS(defense-independent pitching statistics:守備の影響を排除した投球データ)」という数字で見てみよう。

 まずDIPSの説明であるが、防御率や勝利数など、これまで投手「力」の指標として常用されてきた数字は、実は投手力を正確に評価するという意味では大きな問題を抱えている。というのも、一度飛んだ打球がアウトになるかセーフになるかは、厳密にいうと個々の投手の力が一切及ばない、「他人まかせ」の領域での事象なのだが、勝利数や防御率という数字はこうした「他人まかせ」の要因を一切考慮していないからである。たとえば、守備のよいチームに所属すればヒット性の当たりを次々とアウトにしてもらえるし、ホーム球場のファウル・グラウンドが広ければアウトが稼ぎやすいなど、「力」の劣る投手でも、「運」さえよければ防御率の数字はよくなるのである。(ジートが昨季まで所属したアスレチクスのホーム球場マカフィー・コロシアムは、ファウル・グラウンドがとびきり広いことで知られている)。

 これに反してDIPSは、さまざまな「運」の影響を排除して、投手力を正確に評価するために考案された指標である。その概念は、1999年に、ボロス・マッカランというファンによって提唱されたのが最初であるが、「奪三振、与四球、被ホームラン」という、基本的に「守備の影響を受けない」数字だけを基に投手力を評価するものである(対照的に、「運まかせ」の部分を反映する指標が「インプレイになった打球の被打率」であるが、「運まかせ」だけに、同じ一人の投手でもシーズン毎の変動が大きい。これに対し、奪三振・与四球・被ホームラン率は、シーズン毎の変動が小さい)。

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